タニアの戦い(語り:ミシア)

タニアの話を、皆は黙って聞き終えた。

ルディア「なんて酷いことを…」


向こうのタニア「さあ、分かったでしょ?偽者は消えなさい。そしてあたしがおねえちゃんの所に戻るのよ!」

ミシア「ダメだよ、タニア。消えろだなんて…」

向こうのタニア「でも、おばば様が、偽者を殺さないと帰れないって、教えてくれたの」

老婆「ひっひっひ、そうじゃよ、可愛いタニア。今こそ積年の恨みを晴らすんじゃ!ひっひっひ!」

老婆がタニアを焚き付ける。


タニアは、ミシアの後方にいるタニアを睨み付けた。

ミシア「!」

ミシアは両腕を広げてその間に立ち塞がる。

しかしミシアはタニアより背が低いので、視線が絶てない。

アーキル「バカ、それじゃ妨害にならんだろ!」

アーキルがミシアの前に立つために動こうとした。が、ミシアはそれを制止した。

ミシア「ありがとう、アーキル。…でも、ここはボクに任せて…!」


タニアの額から、薄く光る糸のようなものが伸び始めた。

その糸はミシアの頭越しに後方のタニアの額につながる。

そして、タニアは自らの首に手をかけた。

ミシア「何をやってるんだ?!」

向こうのタニア「言ったでしょ?あたしの魔法は、あたしが感じたものを相手に感じさせる。だから、こうして首を絞めれば…っ。ぐうぅぅ!!」

ミシア「ばかな事はやめろ!!」

こちらのタニア「ああぁぁ!!」

自らの首を絞めるタニアに呼応して、後方のタニアも苦しみ出す。


アーキル「言わんこっちゃねえ!」

アーキルがミシアの前に割って入る。

ルディアがタニアを庇って壁の陰に身を伏せる。

向こうのタニアからこちらのタニアは見えなくなったのに、しかしタニアの苦しみは収まらない。

ルディア「どうして?!」

ケニー「その光る糸!きっと魔法の糸です!それを切れば…!」

薄く光る糸はアーキルや壁を貫通して繋がったままだ。

糸を断ち切ろうとルディアが手を振り回すが、切れる様子は無い。そもそも触った感触も無い。

ケニー「魔法の糸だから、物理的には切れないのかも…?!」

コノハ「そもそも、自分の首を絞めたら、相手だけを殺すなんて出来ないんじゃ…?」

ケニー「その判断が出来ないのかもしれません…すっかり洗脳されてるんだ…」


ミシアはアーキルを押しのけ、前方にいるタニアの目を見た。

ミシア「やめなさい、タニア!お姉ちゃんの言うことが聞けないの?!だったら、もう遊んであげないよ?!」

タニアはびくっと身体を震わせ、首から手を離した。薄く光る魔法の糸も消える。

こちらのタニア「…ごほっ、ごほっ」

ルディアの近くのタニアは苦しみから解放された。


向こうのタニア「おねえちゃん、ごめんなさい…。怒らないで…」

涙目になるタニア。

老婆「こらっ、何やめてるんだい!?続けるんだよっ!」

再びびくっと身体を震わせるタニア。涙を振り払って、ミシアを睨む。

向こうのタニア「おねえちゃんどいて!そいつ殺せない!」

ミシア「そんなことは、しなくていいんだ」

向こうのタニア「でもお婆様が殺せって…」

ミシア「そんな奴の言うことは、聞かなくていい」


ミシアは、タニアの方に一歩踏み出した。


向こうのタニア「でも、偽者が消えないと、帰れないって…」

ミシア「そんなことをしなくても、帰ってきていいんだよ」


また一歩。


向こうのタニア「でも、お婆様が…」

ミシア「タニアは、そいつとボクの、どっちの言うことを信じるんだい?」

向こうのタニア「それは…」


さらに一歩。


向こうのタニア「来ないで!」


ミシアは、ゆっくりとタニアに近付いていく。

タニアも少しずつ後ずさるが、ミシアとの距離は縮まっていく。


向こうのタニア「おねえちゃんは、あたしと偽者あいつの、どっちが大事なの?!」


ミシアは黙ってタニアに歩み寄り、目の前に立つ。

タニアはがっくりと膝をついた。

そんなタニアを、ミシアはゆっくりと抱きしめる。

ミシア「そんなこと言わせてごめんね、タニア」

向こうのタニア「おねえちゃん…」

こちらのタニア「お姉さま…」


向こうのタニア「…うわーん!!おねえちゃん…おねえちゃん!」

ミシア「よしよし。もう大丈夫だよ、タニア。お姉ちゃんが付いてるからね。

後はお姉ちゃんに…ボクの仲間たちに、任せておけばいいよ」

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