事後調査(語り:ケニー)

そろそろ夕方になろうとしていた。

ミシア達は帰るために、遺跡の外に置いた馬車に向かって歩き始めた。


が、ケニーは動こうとしない。アーキルはそれを見咎めた。

アーキル「どうした?」

ケニー「ちょっと、あの…遺体を調べるべきだと思いまして」

ケニーは倒れている老婆の方を見た。


ケニー「誘拐犯には仲間がいたはず。その手掛かりが見つかればと思うのですが…」

アーキル「そうだな。しかしあのババア、何がしたかったんだろうな?オレたちが来るのを分かってたってことは、わざわざ呼び寄せたってことだろ?なのに、戦いに増援が来るわけでもなく、罠らしい罠も無かった。たった2人でオレたちに敵うはずもないのにな」

アーキルは辺りを見回したが、他に誰かが居る気配は感じられない。

ケニー「タニアちゃんの洗脳が解けなければ危なかったですし、老婆とは思えないあの強さですから、案外1人で勝てるつもりだったのかもしれませんよ?」

アーキル「どうだかな…」


ケニー「それに、目的までは聞き出せませんでしたからね。

幼い女の子を誘拐して拷問するなんて――僕にはとても信じられませんが、そういう嗜好の持ち主がいるのだとしても…しかし常軌を逸しすぎです。7年間もタニアちゃんを捕らえ続けて、しかも人間を複製する魔法具なんてものまで使って!他にもタニアちゃんの複製や、もしかしたらミシアの複製も、もしかしたら他の誰かの複製までいるかもしれないんです。これは放っておける事態じゃありませんよ」

アーキル「そうだとしたら、オレたちの手に余る事態だがな」

ケニー「もちろん、解決には他の誰か――冒険者や国の衛兵の力を借りることになるかもしれません。しかし少なくとも、手掛かりくらいは掴んでおきたいところです。…今の事態を知っているのは僕たちだけなのかもしれないんですから」

アーキル「国の力、なぁ…」


ケニーは倒れている老婆に近付いたが、手前で固まった。

アーキル「…ケニーは死体に触れるのか?オレが代わりに調べてやろうか?」

冒険者が相手にするのは、基本的に魔物である。食料にするために動物を狩ることもあるが、人間を相手にすることはあまり無い。

アーキルは傭兵出身なので、死体にも慣れていた。

ケニー「そうしていただけると助かります…」

アーキル「なら、ケニーは周辺を調べてくれ。何か残ってるかもしれねえ」

ケニー「分かりました」


アーキルはしゃがみこんで、老婆のローブをしばらく調べた。

アーキル「…身元が分かるような物はねーな」

ケニー「そうですか。こっちも、手掛かりになりそうな物は無いですね…」


アーキルはついでに広間の隅に置かれている鉄の檻も調べた。

風雨にさらされて錆びているものの、鉄の棒が何本も綺麗に切断されているのは分かる。

アーキル「こりゃ、見事なものだな。相当の手練れだ」

ケニー「鉄が斬れる冒険者ですか。剣で打ち合うと勝てませんね」

アーキル「オレの両手剣まで斬れるならな」


ケニーは老婆に目をやった。

ケニー「遺体はどうしましょうか?」

アーキル「放っておけ。味方ならともかくな。戦場で死んだものは、獣が片付けてくれる」

ケニー「そうですか…」


ケニー「あと、目ぼしい物と言ったら、これくらいですね」

ケニーは老婆が持っていた水晶球を取ってきた。戦う前に地面に置かれた物だ。

ケニー「これは貴重な魔法具ですから、持っていきましょう。出所が分かるといいんですが…」

アーキル「使い方は分かるのか?」

ケニー「たぶん、あの白い鳥が見たものがここに映るんだと思います。後で、捕まっていた方のタニアちゃんに聞いてみましょう」

アーキル「“捕まっていた方の”って付けなくても、タニアでいいんじゃねえか?」

ケニー「ああ、そうでしたね」

2人は小さく笑いあった。


アーキル「そうすると、あの白い鳥も必要だよな?…またあれを捕まえるって話になるのかぁ?」

ケニー「この水晶球で操れるんじゃないかと思いますが、方法は不明ですね…」

アーキル「考えるだけ無駄か。よし、オレたちも帰るとするか。あいつもうるさいしな」

ケニー「そうですね」


先に行ったコノハが戻ってきて、文句を言いながらアーキルとケニーを呼んでいる。

夕陽が照らす中、アーキルとケニーは歩き始めた。

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