魔力の糸

いち早く冷静に戻ったのは、ケニーだった。

ケニー「さて、そろそろ本題に戻ってもよろしいですか?」

ミシア「えーっと、何だったっけ?」

ケニー「ミシアの魔力が邪魔をしてタニアちゃんに残っている呪いの魔力を見逃しているかもしれないので、ミシアに店の外に出てもらって、再度ペペさんに見てもらおうという話です」

ミシア「そうだった…」

ミシアはとぼとぼと店の外へ出て行った。


その後、ペペはもう一度目を瞑って集中する。

ペペ「…やはり、タニアさんからは特に妙な魔力は感じられませんね…」

タニア「そうですか…」

ケニー「妙でない魔力はあるんですか?」

ペペ「人は多かれ少なかれ、魔力を有していますからね。皆さんの魔力も感じ取れます。ミシアさんの魔力量は桁外れなので、ちょっと離れたくらいでも強烈に感じられます」

ケニー「…呪いの症状が出ているときだけ、魔力が繋がっているということか…?ここにいる間に呪いの魔法が使われれば…しかしそう都合よくゆくはずもないし…」


そのとき、ペペは奇妙な魔力を感じた。どこからともなく、糸のような細い魔力が現れたのだ。

それがタニアに向かって伸びていく。

そしてタニアに辿り付いた瞬間、タニアの体に異変が生じ始めた。

タニア「う…?!」

タニアが今までに違和感を感じてきた全ての箇所――手首や肘、足首や膝といった関節部や首――に、硬い物で押されるような圧力を感じる。首が締め付けられて苦しい。

コノハ「どうしたの、タニアちゃん!?」

急に崩れ落ちたタニアにコノハが駆け寄る。


ケニー「まさか…呪いが?!――ペペさん、何か感じますか?!」

ペペ「…はい!糸のような魔力がタニアさんに付いています!」

ケニー「どこから来ているか分かりますか?!」

ペペは魔力の糸を辿る。

ペペ「あちらです!」

ペペが指差した方角には、窓があった。そして、その窓から店の中を覗き込む人影が!

…心配そうにしているミシアだった。

アーキル「またお前かよ!」

ミシア「ええっ?!どうなってるの?!タニア、大丈夫?!」


ペペ「違います、糸はミシアさんから来ているんじゃありません!その横を通って…」

糸の先には、木に止まっている白い鳥の姿があった。じっとこちらを見つめている。

ペペ「その鳥に繋がっています!」

ミシアも振り返ってその鳥を見る。ミシアが自宅の部屋からよく見かける鳥にそっくりだった。

コノハ「その鳥…、何かおかしいわ。自然の鳥じゃないみたいな…」

ペペ「糸は、そこで終わりじゃありません…さらに後ろへ…どこか遠くへ続いています…!」


そのとき、白い鳥とタニアの間を繋がっている魔力の糸が切れて消滅した。

タニアが感じていた各部の圧力と苦しさも無くなり、呼吸が和らぐ。

白い鳥はそのままバサバサバサッと飛び立つ。

ミシア「あっ、この、待て!」

しかし白い鳥はそのままいずこかへ飛び去ってしまった。


ルディア「タニアちゃん!大丈夫ですか?!」

タニア「あ、はい…。もう平気です」


ミシア「あの鳥が…呪いの元凶?」

ケニー「正確には、あの鳥を介した何者かの仕業でしょう」

コノハ「あの鳥って、普通の生き物なの?何か不自然な感じがしたわ…」

ルディア「この町によくいる鳥ではないんですか?」

ペペ「どうでしょう?私はあのような鳥を見たことがありません」

アーキル「ふん、あの鳥をふん捕まえてみりゃ分かることだ」


アーキル達は、鳥が飛んでいった方角を睨み続けた。


・・・


皆が帰った後、ペペは魔力量の測定器が表示している数値を再び眺めた。

800。

すごい値だ。だが…。

ペペ「あのメーターの回り方だと、もっと行っていてもいいような気がするんだが…」

改めてメーターを見ると、気付くことがあった。メーターは元々5桁だ。なのに3桁しか表示されていない!

雪だるまの顔が溶けて変形している。この溶けて流れ出した物が、メーターの両端の桁を隠していたのだ。


ナイフで慎重にメーターを隠している物を削っていく。

5桁全部が現れた。

ペペ「なん…だと…!?」

その数値を見て、ペペは目を剥いた。

さすがに信じられない値だ。測定器の故障や不具合を真剣に調査すべきだろう。

しかし、もしこれが正しいとすると…。あのミシアという子は、とてもただの人間とは思えない…。

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