ゲーム酒場『ごちそうはうさぎ亭』(語り:アーキル)

ミシア達が冒険者ギルド『跳ねる亀亭』に戻る途中、アーキルの腹が鳴った。

アーキル「なぁ、この辺りで飯を食ってかねえか?」

コノハ「…アーキル?」

アーキル「いいじゃねえか。冒険者ギルドで食わなきゃならんってわけでもねえだろ?」

コノハ「それはそうだけど」

ミシア「でも早くギルドに戻って話を聞きたいよ」

タニア「そこまで急ぐ必要は無いと思いますけど…」

アーキル「じゃあ決まりだな。ちょうどそこに酒場があるから、入ろうぜ」

アーキルが指した所には『ごちそうはうさぎ亭』という看板を出している酒場があった。そのまま有無を言わさず酒場に入ってしまう。

コノハ「仕方ないわね…」

コノハ達も後に続いた。


酒場を入ってすぐに受付スペースがあり、店主が座っていた。

店主はドワフ人の男性だった。ドワフ人は背は低いが丸々と太って力が強く、緑がかった肌色をしているのが特徴だ。

店主「お前さんたち、見かけない顔だな。ようこそ、ゲーム酒場『ごちそうはうさぎ亭』へ。お前さんたちもカードをやりに来たのかい?」

アーキル「いや、飯を食いに寄っただけだ。カードってのは何だ?」

店主「この店でカードと言えば、バトルカードゲームに決まってらぁな。知らんでこの店に入ってきたのか?まぁ構わんがよ」

アーキル「バトルカードゲーム?」

店主「おうよ。いろんな種類のカードを使って戦う戦略性の高いゲームだ。面白いぜ?ここにはそのゲームをやる連中が集まってくるってわけだ」

店の奥から「俺のターンだ!」という声やターンッとカードをテーブルに置く音が聞こえてくる。

ミシア「ふーん。なんか難しそう」

店主「初心者でも楽しめると思うぜ?そして、慣れてくれば奥の深さも分かろうってもんよ」

店主がカードを1枚手に持って見せる。

アーキル「まぁ、今回はパスだ。食事は出来るんだろ?店の名前からして、うさぎ料理とかよ」

店主「おうよ。ごちそうはうさぎだぜ!」ターン!

言いながら、受付の机に小気味良い音を立ててカードを置く店主。

アーキル「じゃあ、それを人数分頼むぜ。あ、オレは2人前な。あとついでに聞きたいことがあるんだけどよ、誰か魔法に詳しい人間を知らないか?」

店主「いや?」

アーキル「まぁ、そうだろうな」

言いながら、手近なテーブル席に座る。


しばらくして、痩せたドワフ人の男性がうさぎの焼肉料理を持ってきた。ちょっと足元がふらふらして危なっかしい。

アーキル「おいおい、大丈夫か?ちゃんと飯食ってるか?」

痩せたドワフ人「はい、大丈夫です…。長いこと見習いのままですが、ちゃんと月10万セッカの給料も貰ってますし…」

コノハ「それ、町で暮らしていくには安すぎない?」

痩せたドワフ人「いえ、憧れのゲーム酒場で働かせていただいているのですから…!」

アーキル「まぁ、外野がとやかく言うことじゃねーけどよ…」

痩せたドワフ人は、危なっかしい手つきではあったが、問題なく料理を並べ終えた。

痩せたドワフ人「では、ごゆっくり…」

そしてお辞儀をして去って行った。


アーキル「それじゃ、食おうぜ」

一同「いただきまーす!」


・・・


うさぎの焼肉料理は、店の名前に恥じない、なかなかの美味しさだった。


そして食べ終わった頃に、アーキル達に話しかけてくるオラク人があった。

ワンパンダン「俺はワンパンダンっていう者だが。あんたら、さっき店主に何か聞いてなかったか?」

アーキルはワンパンダンと名乗った男を胡散臭そうに見た。しかし質問内容くらいは聞かれても問題ないと判断した。

アーキル「ああ、魔法に詳しい人間を知らないか聞いたんだが?」

ワンパンダン「なるほど、なるほど」

アーキル「それがどうかしたのか?」

ワンパンダン「なに、俺がちょっと役に立てるかもしれないと思ってね」

アーキル「ほう?お前は魔法に詳しいのか?」

ワンパンダン「いや、俺は何も知らないな。しかし情報通なら知ってるぜ?」

コノハ「情報通?」

ワンパンダン「ああ。お前さん達、焼肉チャンスって知ってるかい?」

アーキル「いや」

皆も首を横に振る。


ワンパンダン「そうか、やっぱりな…。俺の広報活動もまだまだだな。

この町にはセナンっていう金持ちが居てな。人呼んで“焼肉のセナン”。セナンに面白い話を教えてやると、礼として焼肉を奢ってくれるんだ」

コノハ「私たちは情報を売りたいんじゃなくて、教えて欲しいんだけど…」

ケニー「つまり、そうやって色々な情報を集めているから、逆に教えてもらえると?」

ワンパンダン「そういうことだ。あんた話が早いな!」

アーキル「なるほどな。じゃあ、そこへ行ってみるか」

ワンパンダン「そうこなくっちゃな!」


ワンパンダンはセナンの家の場所をアーキル達に教えてくれた。


アーキル「しかしえらく親切だな?」

ワンパンダン「俺は焼肉チャンスの伝道師だからな。焼肉チャンスの話を世間に広めたいのさ。しかしどうしても礼がしたいと言うのなら、ここの焼肉料理を奢ってくれてもいいんだぜ?」

ルディア「それくらいでお礼になるのであれば、お安い御用です!」

ケニー「でも、セナンさんから焼肉を奢ってもらって食べ飽きていたりするのでは?」

ワンパンダン「それがなー、俺は一度もセナンから奢ってもらったことが無いんだわ。こんなに焼肉チャンスを広めているのにな~。まあいずれ奢ってもらうさ」

ミシア「そうなんだ…」


ミシア達はワンパンダンに礼を言ってワンパンダン用にうさぎの焼肉料理を注文し、店を出たのだった。

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