薬剤士コスモス(語り:コノハ)
医士スティッキーから教えてもらった場所は、パーマスの町の南西地区にある薬屋だった。
コスモスという名のエルフ人の女性がやっている店で、主に薬草を扱っているが、魔法にも詳しいらしい。ただ、薬草を採りに行くために店を空けることも多く、行っても留守かもしれないとのことだった。
ミシア「そういえば、医士も治癒魔法を使えるんだよね?ケニーは医士になろうとは思わなかったの?」
ケニーは治癒魔法を学ぶためにヤーハ魔法学院に入ったのだと、ミシアは聞いていた。
ケニー「僕が治癒魔法を使えるようになりたいと思ったきっかけは、子供の頃、旅の賢者様に治癒魔法をかけてもらったからなんです。ただ転んでひざを擦りむいただけだったんですけどね(笑)」
子供の頃のケニー「すごい!怪我が一瞬で治っちゃった!ありがとう!…僕もこんな魔法を使えるようになれるかな?」
旅の賢者「きっと出来るとも。大きくなったら、ヤーハ魔法学院に来るといい」
ケニー「まぁ、治癒魔法自体は、学院に入る前に使えるようになったんですけどね。やはり子供の頃の夢は大きいと言いますか」
ミシア「へえ!なんか可愛いし、すごいねぇケニーは」
・・・
話している内に、目的地に着いた。幸い、店主のコスモスは店に居た。
エルフ人は老化が遅い人種だ。コスモスも外見は若く美しい女性で、年齢不詳だった。
コスモス「まあ、いらっしゃい。大勢のお客さんで嬉しいわぁ」
コスモスは店に入ってきたミシア達を見回し、コノハに目を留めた。
コスモス「それに、エルフ人のお客さんまで!この町はやっぱりオラク人が多いからねぇ、エルフ人のお客さんは少ないんよ。貴女はどの森の出身?」
コノハ「え…それは…」
コスモス「もしかして、サイデルの森かしら?」
コノハ「!…なぜそれを?」
コスモス「出身地の森に誇りを持つエルフ人にとって、出身地を聞かれて困るのは、エルフィード以外の出身か、サイデルの森くらいしか思い付かへんさかいねぇ」
エルフ人のほとんどはエルフィード地方(別名、森林地方)の出身だ。
コスモス「でも安心して。うちもサイデルの森の出身やから。エルフ人に会えるだけでも嬉しいのに、同郷の人に会えるなんて、とっても嬉しいわぁ」
それを聞いたミシアは、小声でケニーに質問する。
ミシア「ねえ、なんちゃらの森って、何か言いづらいの?」
ケニー「サイデルの森ですね。ここでは言いづらいので、後ほど…」
しかしそれが聞こえたコノハが口をはさむ。
コノハ「別に隠しているわけじゃないわ。私はサイデルの森の出身よ」
コスモス「サイデルの森はねぇ、エルフィード地方の他の森と比べて木々が少なくて、他の人からサイデル平原とかサイデル焼失林とか呼ばれることがあるんよ」
ミシア「しょうしつりん?」
コスモス「せや。サイデルの森は、およそ100年に一度大火事が起きて、焼失してしまうんやわ。それで木が大きく育たないから、平原とか揶揄されるんよ。でも住んでいたうちらにとっては、立派な森やから」
ミシア「ああ、定期的に大火事が起きる森の話は学校で聞いたことがあるよ!それがコノハの出身地だったんだ…」
コノハ「ええ。火事が起きる原因は不明。でもいつか原因を解明して火事が起きないようにし、豊かな森にするのが私達の夢なのよ」
ミシア「そうなんだ。夢が叶うといいね!」
コノハ「ありがとう。…でも、そんな話をするためにここに来たわけじゃないわよね?」
ミシア「そうだった!」
改めて、ミシアは医士スティッキーから聞いた話をコスモスに告げた。
・・・
コスモスはスティッキーの話を聞いた後、タニアの手足を点検した。
コスモス「ふぅむ、なるほど…」
ミシア「どうですか?」
コスモス「有名な呪いの魔法があるんやけど。人形を人間に見立てて、魔法的な神経を作って呪う相手と接続し、人形に針を刺すことで相手に痛みを与える魔法ね。タニアさんの件は、それに似ている気はするわ…」
タニア「そんな…」
ミシア「タニアが誰かに呪われるなんて、嘘だよ!タニアはとっても良い子だもん!」
コスモス「そうは思うけど、怨みや妬みは誰からどう買うか分からないさかいねぇ」
コノハ「それで、解決するにはどうすれば良いの?」
アーキル「そりゃ、呪ってる奴をぶん殴ればいいんだろ!?」
コスモス「まぁ、その通りやろうねぇ」
ケニー「問題は、その方法ですね。さっき、魔法的な神経を接続すると言っていましたが、その痕跡を辿ることは出来ますか?」
コスモス「さて…? うちの専門はあくまで薬草であって、魔法については知識だけで何も出来ないのよ。ごめんなさいねぇ」
ケニー「そうですか…。では、そういったことが出来る人に心当たりは?」
コスモス「申し訳ないんやけれど、うちには無いわぁ。でも魔法学院や冒険者の店の人なら詳しいんやないかしらねぇ?」
ケニー「魔法学院の分校はこの町には無かったですよね?」
コスモス「せやね」
ルディア「なら、一旦冒険者ギルドに戻りましょうか」
ミシア「そうだね。コスモスさん、ありがとうございました」
タニア「ありがとうございました」
コスモス「いえいえ。あまりお役に立てなくてごめんなさいねぇ」
コノハ「そんなことないわ。お礼に何か薬草を買っていこうかしら」
コスモス「礼なんて不要よぉ。でもそうね、また遊びに来てくれたら嬉しいわぁ。エルフ人のお客さんは珍しいから」
コノハ「なら、また今度寄らせてもらうわね」
コスモス「待ってるわぁ」
・・・
店を出たミシアは、辺りを見回した。どこかにタニアを呪っている奴がいるかもしれないんだ…。
道行く人々や木の枝に止まっている鳥ですら怪しく感じられてくる。
ミシア「あれ、あの鳥…」
コノハ「どうしたの?」
ミシア「ボクの部屋から見える鳥と同じ種類だなぁと思って。この町にもいるんだね」
コノハ「渡り鳥なんかは、かなり遠い所まで旅するしね。普通の鳥でも村と町くらいの距離なら居てもおかしくないでしょう」
ミシア「うん、そうだね」
見知った存在が身近にいて、ちょっと安心したミシアだった。怪しく感じた人影もそんなことはない、と。
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