女医スティッキー(語り:タニア)

目的地である北西地区の病院は、小さな病院だ。

中に入るのはタニアと付き添いのミシアだけで、アーキルたちは邪魔にならないよう外で待つことにした。


ミシア「こんにちは~!」

タニア「こんにちは」

スティッキー「はい、いらっしゃい。あら、見かけない顔ね。私は医士のスティッキーよ」

スティッキーは優しそうな顔をした年配の女性だった。

スティッキー「子供2人で来るなんて偉いわね~。今日はどうしたのかしら?風邪でもひいた?もう夏じゃないんだから、そんな格好してたら風邪をひいても当然よ?お姉ちゃんみたいにちゃんとした服を着ないと駄目よ?」

タニアと背の低いミシアを見て、姉妹(タニアが姉でミシアが妹)だと思ったようだ。

そしてミシアのお腹丸出しの格好を見て、風邪をひいたのかと思うのも当然だった。

ミシア「違うし!ボクの方が姉だし、風邪ひいてないし!ボクは冬でもこの服だよ!」

スティッキー「あら、そうなの?ごめんなさいねぇ。それじゃ、今日は何のご用かしら?お名前から教えてくれる?」


ミシア「ボクは、ハルワルド村のミシア!です!」

両手の拳を腰に当てて胸を張るミシア。

タニア「わたしはミシアお姉さまの妹の、タニアです」

ミシアの隣でお辞儀するタニア。

ミシア「…あれ?きらきらやってくれないの?」

タニア「お姉さま、時と場所をわきまえてください」

ミシア「…う…はい…」


スティッキー「あぁ、あなたたち、ハルワルド村の子だったのね。道理で見かけない顔だと思ったわ。ハップ、ハルワルド村のミシアさんとタニアさんの情報を出して」

スティッキーの机の脇には、ハップ――黄色いゾウを模した形の、情報を記録する魔法具――が置いてあった。スティッキーはそれに命令する。

ハップは「はぷ!」と答えた後、鼻でペンを持ち、「ふすふす!」と言いながら、置かれた白板に猛烈な勢いで文章を書き始める。

ミシア「へえ、紙に書くんじゃないんだ」

甘いはちみつ亭にもハップがあるので、記録された情報をハップが紙に書くところは見たことがあった。

スティッキー「ええ、普通は紙に書くのだけれど、それじゃ紙が何枚あっても足りないでしょう?白板に書けば簡単に消せるから、何度も使えるのよ」

ミシア「なるほどー」


スティッキー「思い出したわ!」

スティッキーは白板の文を読んで、大声を上げた。

ミシア・タニア「えっ!?」

スティッキー「ハルワルド村のミシアさん。7年前に酷い拷問を受けて手足が動かせなくなった。何とかならないかと言われて診に行ったけれど、傷が酷すぎて手の施しようが無かったわ…」

タニア「あ…。そういえば、あのときは先生にも来てもらったんでしたね。その節は、ありがとうございました」

ミシア「そうだったっけ…?」

タニア「もう、お姉さまったら、忘れたんですか?」

スティッキー「いいのよ。あのときはミシアさんも意識がはっきりしてなかったから、覚えていなくても無理は無いわ。私は何も出来なかったし、ごめんなさいね」

改めて、スティッキーはミシアの身体を見た。

スティッキー「それにしても、傷がすっかり無くなってるわね!そしてこんなに元気になって…。本当に良かったわ。よほど良い医士か回魔士に治してもらったのね」

ミシア「あ、いやぁ…。これは治ったわけじゃなくて、魔法で手足を動かしてて、その副作用で傷が隠れててるだけなんだ」

スティッキー「まぁ、そんな魔法があるのね!魔法については治癒魔法しか知らなくて。詳しく聞かせてもらえないかしら?」

ミシア「えーと、えーと、…また今度ということで!それより、今日はタニアを診て欲しくて来たんだよ!」


スティッキー「あらまあ、ごめんなさい。そういえばまだ用事を聞いてなかったわね」

ミシア「大丈夫なのかな、この人」

タニア「お姉さま!」

スティッキー「うふふ、まだ耄碌はしてないから、たぶん大丈夫よ(笑) えーと、タニアさんは…」

スティッキーは白板のタニアの情報を読む。

スティッキー「あら、タニアさんはここに来たことがあるのね」

タニア「え?そうなんですか?初めてだと思ったんですが…」

スティッキー「あなたが2才のときのことだから、覚えてなくて当然よ。このときは高熱が続いて危険な状態だったけど、幸い解熱剤が効いて、すぐ退院できたわね」

ミシア「…」

スティッキー「それで、今日は…?」

タニア「はい、実は…」


タニアはハルワルド村の医士パブリの紹介状を渡して、かくかくしかじかと状況を説明した。

そしてスティッキーはパブリがしたのと同じようにタニアの体を調べ、結論もパブリと同じだった――すなわち、今の状態では何も分からない、と。


タニア「やっぱり、そうですか…」

ミシア「この町って、他にもお医者さんいたよね?そっちに診てもらったら分かるかな?」

スティッキー「どうかしら。私たちは同じ医者ギルドに所属しているから、知識は同じようなものよ。もちろん得意不得意はあるけれど」

ミシア「そっかぁ…」


スティッキー「でも、そうね。体は健康なのに本当にそういう現象が起きているなら、もしかすると…病気じゃなくて魔法かもしれないわ」

ミシア「魔法?!」

スティッキー「あくまでも可能性として、ね。私は魔法に詳しくないから、もし知りたいなら、詳しい人を紹介するけど」

ミシア「…うん、行ってみる。教えてください」


ミシアはその人がいる場所を教えてもらった。

そして料金として魔香水(ルディアに作ってもらった高品質のものだ)を渡して、病院を出た。

医士は治癒魔法を使えることが多い。魔力を回復させる魔香水は、治癒魔法を使う医士にとってはありがたい品物なのだ。


・・・


コノハ「どうだったの?」

病院から出てきたミシアとタニアの周りに待っていた皆が集まる。

タニア「…実は…」

タニアは魔法かもしれないという話をした。


ケニー「やはり…」

ミシア「ケニーはその魔法に心当たりあるの?!」

ケニー「心当たりというか、もしかしたらそうかもしれないと思っていただけです。考えたくは無かったんですが、呪いの魔法ですね…」

ルディア「呪い?!」

ケニー「遠隔で人を害する魔法です。でもまだそうと決まったわけじゃない。その魔法に詳しいという人のところに行ってみましょう」

ミシア「…うん…」

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