鍵開けの魔法(語り:ケニー)
翌日、跳ねる亀亭に重い荷物を置いたまま、ミシアたちは病院へ向かった。
道中、四方山話に花を咲かせる。
ミシア「荷物を部屋に置きっぱなしにして、大丈夫かな?」
ケニー「冒険者ギルドに盗みに入る人間はそうそういないでしょうし、部屋の鍵はかけているから、大丈夫でしょう」
アーキル「そんな心配は、お前んとこの甘いはちみつ亭だって同じだろ」
ミシア「まぁそうなんだけどさ。こんな大きな町だし、鍵を開ける魔法を使える人とかいそうじゃない?」
ケニー「そんな魔法はありませんし(苦笑)」
ミシア「そうなの?」
ケニー「鍵開けというのは、鍵の内部構造を理解して鍵を開ける部分だけ動かす必要がありますからね。物の中を見る魔法や物を動かす魔法はありますが、勝手に内部構造を理解して鍵を開けるような動きをさせる魔法はありません。
つまるところ、それはパズルを解くのと同じようなものですからね。パズルを解く魔法があるなら、謎を解く魔法が出来ることになる。科学は全て解決ですよ。
魔法はあくまで術者の意思によって物理現象に介入するだけです」
ミシア「…カガク?なにそれ?」
ケニー「ヤーハ魔法学院は魔法だけを研究しているわけではないと以前話したと思いますが、では何を研究しているのかというのを一言で言えば、科学を研究している、となります。
科学とは、“謎に対する最も確からしい答えを探すこと”なのです!」
コノハ「ほんと、奥歯に物がはさまったような迂遠な言い回しよねぇ。はっきり“最も確かな答え”って言えばいいのに」
ケニー「何を言ってるんですか、コノハ!貴女も魔法学院に居たんだから、これは最初に教わったでしょう?この曖昧にしか言えないところが素晴らしいんじゃないですか!僕は初めて聞いたとき感動しましたよ!
何かを正しいと仮定して公理とし、それを
どんなに突き詰めて考えても、正しいと思えるけれども理由が説明できない事柄が出てきてしまう。それは公理、“正しいであろう”という曖昧な言い方しか出来ない、それが科学なのです!
そして正しい答えと信じられてきたことも、より深く考えれば新たな答えが見つかって自身の正しさを書き換えることがある、だから現時点の答えが“最も確か”とは言い切れない、それが科学なのです!」
ミシア「??ふ、ふーん?そうなんだ?」
よく分からないながらもとりあえずうなずくミシアだった。
ケニー「科学の下に魔法学、物理学、その他に人文学や応用的な医学などがあります。僕たちが所属していた歴史の研究室は、人文学に入りますね。
魔法は物理現象に介入するものなので、魔法が介在しないときの物体の法則を研究する物理学も重要なのです。むしろ使い手によって何が起こるか分からない魔法学より、誰がやっても同じ結果になる物理学の方が研究しやすいので研究室も多いですね」
ミシア「??へ、へえ…」
あまり理解できず目を回しているミシアを見て、ルディアが話を最初に戻す。
ルディア「でも鍵開けって、鍵の内部構造を把握する技術と、実際にそれを動かす技術が必要なので、透視する魔法が使えたら前者は楽になりますし、物を動かす魔法が使えたら後者も楽になるでしょうね。見えないのに構造を把握したり、同時に何箇所も押さえたり動かしたりするの、大変ですから」
ミシア「なんか詳しいね!もしかしてルディアって、鍵開け出来るの?」
ルディア「え、その…簡単な鍵なら…。乙女の嗜みですから」
ミシア「え、そうなの?!どうしよう、ボク鍵開け出来ないや!」
タニア「わたしもです…」
アーキル「タニアはともかく、ミシアは乙女って柄じゃねーだろ(笑)」
ミシア「なんだって?!」
コノハ「鍵明けが乙女の嗜みなわけないでしょ!私だって出来ないし」
アーキル「お前は乙女って年じゃないだろ(笑)」
コノハ「…なんですって…?」
アーキル「やべ」
走り出すアーキルと追いかけるコノハ・ミシア。
タニア「あぁ、ちょっと!場所分かってるんですか?!」
パーマスの町は東西南北に走る大通りがあるので、その大通りによって大きく4つの地区に分かれている。
病院は各地区に1つずつあるが、ミシアたちが向かっているのは北西地区にある病院だ。ハルワルド村の住人がこの町に治療に来る場合は、いつもこの病院を使う。
別にどの病院でも構わなかったのだが、ハルワルド村に一番近いという理由で北西地区の病院が指定されているのだ。
アーキル「村は2日もかかる距離にあるんだから、どの地区にあったって誤差の範囲だろうに」
ミシア「ボクもそう思うけどね~」
アーキルはコノハとミシアに耳を引っ張られていたが(背の低いミシアに引っ張られるために、アーキルは前かがみになって歩いていた)、それでもアーキルの口は止まらない。
そうこうしながら、目的の病院に到着した。
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