冒険者ギルド『跳ねる亀亭』(語り:ミシア)

冒険者は、集めた魔液を換金するため、冒険者ギルドの世話になる。

ミシアが冒険者になってから初めての換金は、冒険者ギルドの派遣サービスを利用してギルド員にハルワルド村に来てもらった。(ホワイトドラゴンを倒して大量の魔液があったので、その余裕があった)

しかしその後は、魔液を換金するためにほぼ毎月1回、この町の冒険者ギルド『跳ねる亀亭』に来ていた。

看板には後ろ足で立ち上がったゾウガメが炎を吐いている絵が描かれている。


タニア「跳ねる亀…不思議な名前ですね?」

アーキル「お前らの甘いはちみつ亭だって、同じようなもんだろうが」

ミシア「ぶう。甘いはちみつのどこが不思議なのさ?」

アーキル「蜂蜜は甘いもんなのに、わざわざ甘いって付けるところだ」

ミシア「うちの家系は代々甘いものが好きで、特に蜂蜜が好きだったから、この名前にしたんだって」

アーキル「へー」

ミシア「なんだよぅ」

ルディア「ほらほら、ミシアちゃん、それくらいにして。早く入りましょう」

ミシア「うん!」

コノハ「…ミシア、頼むからもう騒ぎは起こさないでね…」

タニア「?」


ミシア「こんにちはー!」

ミシアは跳ねる亀亭の扉を開け、元気よく中に入っていった。


・・・


跳ねる亀亭も甘いはちみつ亭と同じく、宿酒場だ。

1階が酒場になっており、2階に宿泊用の部屋がある。3階もあるがギルドの事務所になっているらしく、ミシアは入ったことは無い。

1階の入り口側全体がテーブル席になっていて、奥にギルドの受付や厨房への入り口がある。


テーブル席では何組かの冒険者が酒を飲んでいたが、ミシアの声を聞き、一斉に入り口の方を向いた。

冒険者1「いよう、少年じゃないか!久しぶりだな!」

ミシア「少年じゃないよ!」

冒険者2「じゃあぼうずかぁ?」

冒険者3「ぼっちゃんだろう」

笑いながら冒険者たちが次々に口をはさむ。

ミシア「違うって!ボクは女だよ!見れば分かるでしょ!」

抗議しながら、ミシアは自分の股間をぱんぱんと叩く。

冒険者たち「ぎゃはは、やりやがった!」

冒険者たちはミシアを指差して大笑いする。


アーキル「だからパンパンすなっ!」

アーキルはミシアの頭頂部をごちんと叩いた。

頭を押さえてしゃがみこむミシア。

タニア「お姉さま…まさか町でもやっていたなんて…」

よよよと崩れ落ちるタニア。


アーキル「お前らも、毎度毎度こいつをからかうんじゃねえよ」

冒険者1「ははは、悪い悪い。つい楽しくてな!」

コノハ「ほんと、アーキルみたいなのが大勢集まって、頭が痛いわ…」

アーキル「オレを一緒にするな!」

ルディア「ミシアちゃんも、これで何度目ですか!女の子がそんなことしちゃいけませんって、何度も言っているでしょう?」

タニア「そうですよ、お姉さま…。せめて村の中だけにして下さい」

ミシア「うん、分かってるんだけど、つい…」

アーキルに叩かれた頭を押さえながらなんとか弁明しようとするミシアだが、良い言い訳は浮かんでこなかったのだった。


・・・


冒険者1「ところで、その嬢ちゃんは見たことない顔だな?」

一人の冒険者がタニアを見ながら言う。

タニア「あ、はい。初めまして。わたしはミシアお姉さまの妹の、タニアといいます。お姉さまがいつも…お世話?になっております」

冒険者2「…理解できない言葉があったんだが。みしあオネーサマって、何だ?」

冒険者3「…ミシアのことじゃないか?」

冒険者1「お姉さまって言ったぞ?」

冒険者2「この嬢ちゃんの方が姉なんじゃないのか?」

冒険者3「ああ、ミシアはどう見ても弟だよな?」

ミシア「だから!ボクは正真正銘女だし、タニアはボクの妹だし!タニアの病気を治すために町に来たんだ。だから…」

ミシアはひゅっと冒険者の目の前に移動して、据わった目で顔を近付ける。

ミシア「タニアに手を出したら許さないからね…?」

冒険者1「お、おう…」


冒険者2「何か病気なのか?」

タニア「あ、いえ。何の病気なのか分からなくて…」

冒険者2「そうなのか。とにかく良くなるといいな」

冒険者3「俺たちに出来ることがあったら何でも言ってくれ。力になるぜ」

タニア「はい、ありがとうございます」

深々と頭を下げるタニア。


ミシア「だから、タニアに手を出すなと…!」

冒険者3「待て待て、そういう意味じゃねえ…!」

逃げる冒険者を追い回すミシアの姿が見られたのだった。

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