パーマスの町(語り:タニア)

崖の道を抜けると、平原が広がっていた。

平原に入ってからは特に危険は無く、途中で夜営をして一夜を明かし、さらに一日かけて道を進んで、夕刻には目的地であるパーマスの町に辿り着いた。


パーマスの町は上空から見るとおおよそ正方形の形をしていて、魔物から町を守るために石壁で囲まれている。

ハルワルド村の方から流れてきた川は、パーマスの町の西側にある湖――パーマス湖――に流れ込む。この湖は良い漁場だ。

湖以外の平原部は、畑や牧草地として使われている。

町は中央に大きな広場があり、そこから東西南北に大通りが伸びていて、町の外壁に突き当たる所には門が設けられている。

ミシア達は北から来たので、北門に到着した。


門には国に所属する衛士が詰めていて、町を出入りする者に対して審査を行っている。

審査と言っても簡単なもので、名前や来訪理由・どこから来たか等をハップに登録して、税金(入町料)を納めるくらいのものだ。

ハップは記録やお金を保存できる魔法具であり、黄色いゾウをモチーフにした形をしている。

甘いはちみつ亭にも2台のハップが置かれていて、それぞれ金庫と入退村の記録をつける役割を担っている。

入退村の記録は村長が行うべき仕事だが、ハルワルド村には滅多に人の出入りが無いので、甘いはちみつ亭で行っているのだ。

また、本来ならば冒険者や狩人が村の外に短期的に出入りするときも記録をつけるべきなのだが、ハルワルド村ではそこまで厳格な運用はされていない。小さな村ではよくある事だ。

ミシアとタニアは「タニアの病気を診てもらうため」、ルディア達は「冒険者ギルドに行くため」と理由を書いて、特に問題なく町に入る許可が出た。

商人なら馬車ごと町の中に入るが、ミシアたちはそうではないので、馬車は門で預かってもらう。


パーマスの町はハルワルド村よりはずっと大きいものの、『普通の国スタンガルド』の中では辺境にある町。町としては大規模というわけではない。

とはいえ、道は石畳で舗装され、家々の壁も建材がむき出しになっておらず塗装されている。

また、細い水路が町の中に張り巡らされていて、水を汲むのが楽になっている。


町の中央にある広場では、今の時間帯は人も少ないが、昼間なら人形劇や紙芝居に集まる子供たちの姿も見られるだろう。

広場の中央には石で囲まれた池があり、その中に石像が立っている。顔がライオンで、腕組みをしている堂々とした姿が特徴だ。

町に来ること自体が滅多に無いタニアにとっては、この石像も珍しい。つい立ち止まってしまう。

アーキル「オラクルード地方じゃ、どこの町にもこの石像があるよなぁ」

タニア「これはティーワ様の像ですね」

アーキル「ああ、そんな名前らしいな」

オラクルード地方に住むオラク人には、「人間を見守り導く存在」として神々というものを引き合いに出す文化があり、その中でも著名な神がティーワだ。

ティーワの教訓は「汝の成すべきことを為せ」。何かを「面倒だからやりたくない」と怠けている人に対し、「お前それティーワ様の前でも同じこと言えるの?」という言い回しがよく使われる。

他にも秘密を守る神イシュカや、全てを知り完全に身に付けているとされる神サスカなどが有名だ。

しかしこれはあくまでオラク人の文化であり、サラム人であるアーキルやエルフ人であるコノハには特に根付いていなかった。


時刻は夕刻。医士に行くのは明日ということにして、まずは宿の確保だ。

ミシアたちは冒険者ギルドに向かうことにした。冒険者ギルドは宿酒場になっていることが多く、この町の冒険者ギルドも例外ではない。

町には宿酒場はいくつかあるが、冒険者ギルドはひとつだけだ。

広場を抜けて南大通りに出る。

大通りには大道芸を披露している者や露店が立ち並び、呼び込みの声が飛び交って賑やかで、タニアにとっては新鮮だった。


しばらく歩いてからミシアは南大通りの東側に面している建物の前で止まり、タニアに告げた。

ミシア「ほら、ここが冒険者ギルドだよ!」

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