謎の病(語り:タニア)

ミシアとサティが地下室から戻ってくると、スカーレットの席の周りに人だかりが出来ていた。

ミシア「どうかしたの?」

ミシアが近付いていくと、人だかりの真ん中にいたのは床に座り込むタニアだった。

ミシア「タニア、どうしたの?!」

タニア「…お姉さま…。いえ、何でもありません」

トーリ「何でもないことは無いでしょう。急に倒れて、苦しそうでしたよ」

ミシア「そうなの、タニア?」

タニア「ですが、もう立てますし」

サティ「体の調子が悪いときは、正直に言うべきですわ。早く言ってもらえれば手が打てるのに、隠して後から言われても手遅れになってるかもしれませんのよ」

タニア「…」

ミシア「驚くほどサティらしくないけど、サティの言う通りだよ、タニア」

サティ「どういう意味ですの?!わたくしはいつもあなた達のことを心配して……いえ、なんでもないですわ!」

タニアはそれを聞いて少し微笑んだが、話す決意をした表情に変わる。


タニア「…実は何ヶ月か前から、おかしなことを感じるようになったんです…」

ミシア「おかしなこと?」

タニア「はい。手や足に、何か硬いものが触っているような」

ミシア「痛いの?いつもそうなの?」

タニア「いえ、たまにだけです。痛くはないんですが、でも触り方はだんだん強くなっているようで…。さっきは首に物が当たっている感じがして、息苦しくなったんです。首にこの感触があったのは初めてでした」

ミシア「え…。なにそれ?」

ミシアはタニアの首を見たが、特に異常は見当たらなかった。


ケニー「何かの病気か、でなければ…。医士に診てもらったことは?」

タニア「いえ、ありません」

ケニー「であれば、まずは医士に診てもらうべきでしょう。この村にも医士は居ましたよね?」

ライラ「ええ、パブリさんね。早速診てもらいに行きましょう」

ライラは心なしか普段より早口になっていた。

タニア「え、でもお店が…」

ミシア「そんなの心配してる場合じゃないよ!店長命令だよ!」

スカーレット「ああ、アタイたちのことは気にしなくていいよ」

サティ「わたくしが代理で店の面倒をみててさしあげますわよ」

ライラ「じゃあ皆さん、すみませんがちょっと行ってきます」

ライラとミシアはタニアを連れて医士の下へ向かった。


・・・


医士パブリの見立てでは、タニアは問題なく健康体だった。

タニアから聞いた、症状が出たことがある場所――手首、肘の前後、肩、足首、膝の上下、太もも、腰、胸、首――を詳しく診察したが、特に異常は見られなかった。

パブリ「ただ、症状が出た場所は、何か法則性がありそうな気はするね。しかし全身に症状が出ているが、満遍なくというわけではない。関節が多いようだが、関節でない場所もある。

昼間、屋外で多く起きているらしいので、例えば太陽の光や風と何か関係があるかもしれないが…」

ライラ「それは、どういう病気なんでしょうか?」

パブリ「すまないが、分からないんだよ。こんな症状は聞いたことが無いし、今診ても何の問題も見当たらないのだから」

ミシア「じゃあどうすればいいの?」

パブリ「様子を見て、症状が起きたときに呼んでもらうか、私より詳しい医士――町の医士に診てもらうか、だね」

タニア「症状が起きるのはいつも短い間だけなので、先生に来てもらう頃には収まってるんじゃないかと思います…」

ミシア「じゃあ、町のお医者さんに診てもらおう!ボクが連れてってあげる!」

ライラ「ミシアちゃん…」

ミシア「いいでしょ?」

ライラ「そうね…。エスウィングの皆さんが護衛に付いていってくれるなら…」

ミシア「なら大丈夫!きっと付いてきてくれるよ」

パブリ「では、紹介状を書くから、少し待ってくれたまえ」

ミシア「お願いします!」


ミシアたちがパブリの家を出ようとすると、パブリの息子のティックから声をかけられた。

ティック「タニア、大丈夫なのか?」

タニア「うん、大丈夫よ」

ティック「ほんと、お前らときたら、やっかいな症例ばかり持ってきやがって」

ミシア「こっちだって好きでなってるんじゃないやい!」

ティック「分かってるけどよ…。俺の手に余るんだよな…」

ミシア「? どういう意味?」

ティック「なんでもねえよ!お大事にな!」

タニア「うん、ありがとう」


ミシア達を見送るティックに、母親の看護士クスタが声をかけた。

クスタ「もっと勉強しなさい。いつかミシアちゃんやタニアちゃん達の役に立てるように」

ティック「言われなくても分かってらあ」

ティックは医士の勉強に戻っていった。


・・・


甘いはちみつ亭への帰り道。

タニア「お姉さま、迷惑かけてごめんなさい」

ミシア「迷惑だなんて思ってないよ。タニアのことはボクが守るから…!病気を治す方法も、きっと見つけてあげるからね!タニアが薬を持ってきてくれたときみたいに」

ライラ「…」

タニア「…ありがとうございます、お姉さま」

タニアは二重につらい気持ちになった。今回の件と、薬の真相を隠している件と。

しかしそれを悟られないよう、微笑むしかなかった。

その心情を表すかのように、空もどんよりと曇ってきた。

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