スカス盗賊団(語り:スカーレット)

ミシアたちは、地道に歩いてハルワルド村まで戻ってきた。


ミシアが甘いはちみつ亭に入ろうとすると、建物の窓のそばに白い鳥がいるのに気付いた。この鳥はミシアの部屋からよく見かけるので、ミシアにとっては顔見知りのような存在であった。飼っているわけではないので、ペットではないが。

ミシア「ただいまー。今帰ったよ」

ミシアは白い鳥に声をかけたが、鳥はミシアの方をちらっと見ただけで、近くの木の方へばさばさっと飛んでいった。

ミシアは鳥が飛んでいくのを笑顔で見送ってから、甘いはちみつ亭に入った。


ミシア「ただいま~!」

ライラ「あらあら~。ミシアちゃん、皆さん、お帰りなさい~」

タニア「おねえさま、皆さま、お帰りなさいませ!」

笑顔で出迎えるライラとタニア。その他に、ミシアたちに声をかける者がいた。

スカーレット「よう、お帰り!」

アーキル「あん?スカーレットじゃねえか!なんでこんな所にいるんだ?!」


スカーレットは、半年ほど前に出会った『スカス山賊団』のリーダーだ。

魔物の狩場としてリザードマンの居場所を教えてくれたのがスカーレット達だった。そこにホワイトドラゴンも居たのだ。

ミシア達はホワイトドラゴンを倒した後にスカス山賊団の所に戻り、討伐を祝して宴会が開かれた。

しかしその後、スカス山賊団は拠点を変えたようで、ミシア達が山を探索していても山賊団には出会えなかった。

ミシア「うわー、みんな久しぶりー!どこに行ってたの?ここで会えるなんて思ってなかったよ!」


酒場のテーブル席にはスカーレットの他にスカス山賊団のメンバーも居た。

シルフ人の双子の姉弟ユーリとトーリ。

オラク人のファクとリー。

サラム人のケルトンとグルトン。

村長の娘サティ。


ミシア「ちょっと、サティはスカス山賊団のメンバーじゃないよね?!何しれっと混ざってるの?!」

サティ「ちっちっち、ミシア、あなた間違ってますわよ」

ミシア「なにが?」

サティ「ここにいらっしゃるのは、キロスカス盗賊団の皆さんですのよ!」

ユーリ「ねえさんが言うには、もっと強くなったことをアピールしたいと」

トーリ「姐御が言うには、山を降りたから山賊団ではないそうで」

サティ「それで、キロスカス盗賊団という名前を提案させていただいたのですわ!」

スカーレット「ああ!なかなかいい名前だろ?気に入ったぜ!それでサティと一緒に飲んでたってわけさ!」

ミシア「なんでそんなに仲良くなってるの?…って、ああ…」


スカーレットはサラム人の女性であり、胸の大きさはサラム人としてもかなりのものだ。

サティ「スカーレット様は、ライラ様に勝る魅力の持ち主…!このサティ、ライラ様一筋と思ってまいりましたが、スカーレット様の軍門に降らずにはいられなかったのですわ…!申し訳ありません、ライラ様~!でもライラ様への忠誠も不滅ですわ~!」

ライラ「あらあら~。気にしなくていいのよ、サティちゃん~。うふふ」

スカーレット「ふふ、何を言っているのかはよく分からんが、面白いやつだぜ!」

トーリ「という訳なのです。もちろん盗賊団と言っても人を襲うような真似はしませんので、ご安心を」

アーキル「まあ、それは疑ってないけどよ…」


ミシア「ほんと、サティって巨…」

サティ「お黙りなさい!」

サティはミシアの言葉を途中で遮った。

そしてサティはミシアの首に腕をかけて――本当は首根っこを掴みたいところだったが、ミシアは襟のある服を着ていなかった――厨房の脇の扉をばたんと開き、そこから地下室へミシアを引きずっていった。

ミシア「ちょ、サティ、苦しいって~」

カウンターの横で待機していたタニアは、困った微笑を浮かべるだけで、それを見送った。ミシアとサティのじゃれ合いはいつもの事だ。

そして地下室からサティの声が響いてくる。

サティ「ミシア、いつも巨乳フェチって言うなって言ってますでしょ!スカーレット様には秘密にしてるんだから!」

ミシア「えー、きっともうばれてるってー」

スカーレット「…きょにゅうふぇちって、なんだ?」

ライラ「あらあら、サティちゃんたら慌てんぼさんなんだから~うふふ」

ライラは開けっ放しになっていた地下室への扉を閉めた。サティ達の声は聞こえなくなる。

ライラはそのまま何事も無かったかのように料理の作業の続きに戻った。

一同「…」

スカーレット「なあ、きょにゅうふぇちって何なんだ?」

ユーリ「分からないなら気にしないで下さい」

トーリ「サティさんは秘密にしたいようですから、黙っていてあげましょう」

スカーレット「ふーん…。まあいいか」


スカーレットはさらっと気分を入れ替え、タニアを呼んだ。

スカーレット「よう、嬢ちゃん!追加の注文だ!」

タニア「はい、ただいま」

タニアは伝票とペンを持ってスカーレットのそばに来る。

スカーレット「えーっと、何にしようかな…。ちょっと待ってくれ」

スカーレットはメニューを睨みつけ、そのままの目つきでタニアも見る。

タニアが左手に持っているペンが震えた。

それを見たユーリとトーリはタニアに優しく声をかける。

ユーリ「姐さんは、あなたを睨んでるわけじゃないのよ」

トーリ「姐御は、集中すると目つきが悪くなるんだよ」


しかしタニアは、スカーレットを怖がったわけではなかった。

ペンを持っている手だけでなく、体全体が震え出す。タニアは床に倒れた。そのまま喉を押さえて背を丸める。

タニア「う、うぅ(く、苦しい…)」


スカーレット「な…!嬢ちゃん、どうした?!」

ルディア「タニアちゃん?!」

ライラ「タニアちゃん?!どうしたの?!」

倒れたタニアの周りに皆が集まってくる。


甘いはちみつ亭の外で、鳥が飛び去るバサバサッ!という羽の音が大きく響いた。

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