第2章 冒険者の日常
ヌルみみず
ミシアがエスウィングに加わってホワイトドラゴンを倒してから、半年ほど経ち、秋になろうとしていた。
8月にタニアが誕生日を迎え、13才になった。
11月にはミシアの誕生日が来て、16歳になる。
エスウィングの一行は、ハルワルド村を拠点として森の中をあちこち探索し、魔物を狩ってきた。
森の北にある山に出向いたときには、岩場に潜む魔物である
ホワイトドラゴンがいた洞窟には、ホワイトリザードマンは復活していたが、やはりドラゴンの姿は無かった。
・・・
そんな中、今日はヌルみみずという魔物に遭遇した。
この近辺の森はダックペンギンという魔物が多く、ヌルみみずはダックペンギンのいる場所でよく見かけられるため、もっと早くヌルみみずに遭遇してもおかしくなかった。今まで遭遇しなかったことが奇跡のようだ。
ヌルみみずは、一言で言えば、ぬるぬるしている巨大なミミズだ。太さは人間の腕くらいから胴体以上まで、さまざま。長さもそれに応じて色々だ。
ヌルみみずと戦うときは、距離が離れているからといって油断してはならない。
ヌルみみずが頭を持ち上げ、こちらに向けたら要注意だ。
頭がぷくっと異様なほど膨らみ、ポッという音と共に急激にしぼむ。すると、離れているにも関わらず衝撃が襲い掛かってくるのだ。
アーキル「いてっ!なんだこりゃ?!」
ミシア「空気の衝撃波だよ!飛んでくる瞬間、よく見たら向こうが歪んで見えるから、分かるよ!」
ミシアは昔この森で修行をしていたことがあるので、ヌルみみずと遭遇したこともあった。
アーキル「そういうことか!」
ヌルみみずからポッという音がした直後、アーキルが衝撃にのけぞる。
アーキル「ちっ!」
次の衝撃は、アーキルが持っている
アーキル「防ぐだけならどうってことねえが、連発されるとやっかいだな…!」
ヌルみみずは1匹だけでなく、8匹ほどいた。入り乱れて衝撃波を撃ってくる。
アーキルは熟練の重剣士だが、衝撃波のように見えにくい攻撃は不得手だった。
ミシア「ボクに任せて!」
ミシアはアーキルの前に出る。
ヌルみみずからポッという音がした直後、ガッとミシアが拳を振るう。衝撃波がミシアの拳に当たって散る。はたから見ていても分からないが。
ミシアは格闘士なので、武器を持たない戦い方の修練を積んでいる。また、全身を魔力で覆い、魔法の鎧のようにすることが出来る。防御力の高さではパーティー随一だ。
ヌルみみずがポッポッポッとばらばらに撃ってくる衝撃波を、ガッガッガッと迎え撃つ。
アーキル「やるじゃねえか」
コノハ「離れている敵の相手は、弓士の役目よ!」
コノハは、ミシアの後方から矢を放った。
エルフ人であるコノハは弓の名手だ。
しかしヌルみみずは衝撃波で応戦する。矢は途中で迎撃され、折れて落ちる。
コノハ「ミミズのくせに生意気な!」
コノハは矢を連射した。何本かは迎撃されずにヌルみみずの体に当たったが、表面のぬるぬるとした粘液に弾かれてしまう。
コノハ「うそぉ…」
ミシア「ボクが衝撃波を迎撃しながら接近するよ。アーキル、後ろからついてきて!」
ケニー「それなら、僕がミミズの前に壁を立てますよ。すぐ近くまで安全に接近できるでしょう」
ミシア「ボクでも接近できるよ。これはボクの見せ場だよぉ」
ケニー「たまには僕に見せ場を譲ってくださいよ。ミシアが来てから、僕の出番が減ってるんですから」
ケニーは空気を壁に変える防壁魔法が使える。だが、ミシアが防御役としてパーティーに加わってから、この魔法の出番はめっきり減っていた。
ミシア「いやいやボクが」
ケニー「いやいや僕が」
ミシア「ボクが」
ケニー「僕が」
ルディア「ふたりとも、喧嘩しないで。ここはケニーにお願いしましょう。その方がリスクが少ないです」
ミシア「はーい。リーダーがそう言うなら。任せたよ、ケニー!」
ケニー「ありがとうございます。では!」
ケニーは右手をヌルみみずに向ける。すると、ヌルみみず達のすぐ前に光の壁が現れた。
ヌルみみずの衝撃波は光の壁に当たり、こちらに飛んでこなくなる。
アーキル「よっしゃ、行くぜ! ルディアも来い!」
ルディアは軽剣士だが、戦闘はあまり得意ではない。しかしヌルみみず相手の接近戦ならルディアでも大丈夫だとふんだのだろう。
ルディア「分かりました!」
ミシア「ルディアの守りは任せてね!」
ミシアもルディアに続く。
アーキルは光の壁の脇からヌルみみずを攻撃し、両断する。
アーキル「おらぁ!接近すればこっちのもんだぜ!…うおっ」
ヌルみみずを倒すことは出来たが、剣や鎧にぬるぬるした粘液が付着して、気持ち悪い。
ミシア「そうそう。それがあるから、攻撃するのは武器を持ってる人に任せるね」
アーキル「てめえ、魔法で拳を覆ってるから関係ねーだろうが!」
ミシア「でも気持ち悪いんだもーん」
ルディア「なら、私が。やーーっ!」
ルディアの武器は
ルディアの気合のこもった突きは、しかしヌルみみずの粘液に逸らされた。
ルディア「あら?」
斬る武器と違い、突く武器はヌルみみずと相性が悪かった。ただでさえルディアの技量も低いので、なおさらだ。
アーキル「お前ら、使えねーな!…くそう、ならオレひとりでやったらぁあ!!」
アーキルはヌルみみずを叩きまくり斬りまくり、宣言通り一人で全滅させた。
ケニー「お疲れ様でした。さすがアーキルです」
コノハ「でもそのぬるぬるが取れるまで、近付かないでね」
アーキル「お前ら…」
ルディア「ほらアーキル、顔についたぬるぬるはちゃんと拭いて下さいね」
ルディアはアーキルにタオルを渡す。
魔物は死んでから少し時間が経つと、魔液に変わる。ヌルみみずの粘液も同様だ。
魔液は肌に直接触れると毒なので(火傷のような症状が出る)、魔液に変わる前に拭いておかないと危険だ。
ちなみに金属を溶かす性質は無いので、剣や鎧に付いた魔液で武器や防具がダメになることは無い。
ヌルみみずが魔液に変わると、ミシアたちはそれを回収した。
魔畜瓶を近づけるだけで魔液は瓶に吸い込まれるので、回収は簡単だし、剣や鎧の手入れも楽なのはありがたい。
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