魔液の値段(語り:ルミ)

夕食後、エスウィングの面々はルミの周りに集まった。

ルミ「ふぅ。ご馳走様でしたぁ」

ライラ「あらあら~。いっぱい食べてもらえて嬉しいわ~」

ルミ「とても美味しかったですぅ」

ルミはほっそりとした体格なのに、ひとりで3人前は平らげていた。

ミシア「小さいのにずいぶんたくさん食べたね~」

ルミ「はいぃ。空を飛ぶのは基本的に魔法の力なんですがぁ、羽を動かすには筋力も使いますのでぇ、エネルギーをたくさん使うんですぅ」

ケニー「へえ。そういうものなんですね」

ルミ「人によって、つまり魔法によって違いますけどねぇ」


ルミ「それでは、改めましてぇ。この度は、冒険者ギルド派遣サービスをご利用いただきぃ、まことにありがとうございますぅ。実は利用者が少なくてぇ、今回久しぶりに飛ぶことが出来て、嬉しく思ってますぅ」

ルディア「いえいえ、こちらこそ、遠いところをわざわざご足労いただき、ありがとうございます」

ケニー「足労?飛んで来たのに?」

コノハ「それは慣用表現でしょ…」


エスウィングの各員は、各々が持っていた魔畜瓶をルミに渡した。

ルミは魔畜瓶の中の魔液の量と濃さをチェックする。

ルミ「まぁ~、これはなかなかですねぇ!」

ミシア「でしょ!ホワイトドラゴンの魔液だからね!」

ルミ「なんとぉ!ホワイトドラゴンを倒したんですかぁ?!」

ミシア「うん!ドラゴンの鼻の穴から鼻毛を抜いて、そこに炎の魔法を撃ち込んだの!」

ルミ「鼻の穴ぁ?鼻毛ぇ?ちょっと、何を言っているのか分かりかねますぅ」

ケニー「ですよねー」

コノハ「…ミシア、分かってもらえないのを分かっててわざと言ってるんじゃ…」

ミシア「えへへ(笑)」


ミシアたちは、どうやってホワイトドラゴンを倒したのかをルミに説明した。


ルミ「なるほどぉ。お話は分かりましたぁ。魔法学院出身の方もいらっしゃいますしぃ、信憑性は高いと思われますのでぇ、報告書を提出していただければぁ、ホワイトドラゴン討伐者として登録いたしますよぉ」

ミシア「やったー!」

ケニー「はい、報告書は既に書いてあります」

コノハ「さすがケニーね。こういう事はきっちりしてるわ」


アーキル「それで、魔液の査定は?」

ルミ「そうですねぇ、魔畜瓶1個当たり80万セッカといったところですねぇ」

ケニー「80万!」

今のミシアたちだと、1人月で20~25万セッカ稼げれば良い方だ。(人月とは、1人が1ヶ月働くことを表す単位だ)

ケニーたちは驚いたが、アーキルは。

アーキル「ドラゴンっつっても、大した額じゃねーんだな。5000兆セッカくらい欲しいもんだぜ」

ケニー「ぶーっ!?5000兆セッカなんて、国ですら持ってませんよ!」

ルミ「お分かりとは思いますがぁ、派遣サービスは手数料を多めにいただいておりますしぃ。懸賞金が懸かっている魔物ならぁ、魔液の代金とは別にお支払いできるんですけどもぉ」

ルディア「でも、私たちにとっては充分すぎる額です!」

ルミ「分かりましたぁ。それでは、こちらをどうぞぉ」

ルミはかばんから白貨の束を取り出し、1人80枚ずつ渡した。

(1セッカは石貨1枚、10セッカで銅貨1枚、100セッカが銀貨1枚、1000セッカが金貨1枚、1万セッカが白貨1枚となっている)

それと共に魔液の入った魔畜瓶をかばんにしまい、逆に空の魔畜瓶を6つ取り出す。人数分プラス予備1個だ。

ルディア「ありがとうございます!」


アーキル「しかし、そのかばんに大金と魔液が入ってるんだよなぁ」

ミシア「お金がいっぱい入ってたら、重そうだよね」

ルミ「ご心配なくぅ。このかばんには軽くなる魔法がかけられているのでぇ、そんなに重くないんですぅ」

ミシア「へえ、そんな魔法も使えるんだね!」

ルミ「いいえぇ、それはかばんを作った人がかけた魔法ですねぇ。正確に言えばぁ、魔力を与えると軽くなる魔法具ですぅ」


そのかばんを見ながら、アーキルが言う。

アーキル「いつも思うんだが、簡単に奪えそうだよな」

コノハ「こらアーキル、何考えてるの!」

ルミ「わわわ、わたしは戦闘力がありませんからぁ、襲わないでくださいぃ」

アーキル「バカ、オレたちは襲わねえよ!盗賊とかの心配をしてるんだ」

ルミ「そのために、空を飛べる人間がこの仕事に就いているんですぅ。…シルフ人の盗賊も居るかもしれませんけどぉ」

ケニー「でも、悪い冒険者だったら、嘘をついて呼び出して襲うこともできそうですよね」

ルディア「冒険者にそんな悪い人はいません!」

ケニー「いや、そう言い切れはしないでしょう…」

ルミ「はいぃ、でも冒険者ギルドのお仕事はぁ、冒険者の皆様があってのものですからぁ、信用していますよぉ。それでも派遣サービスの利用基準はありますがぁ、エスウィング様は魔法学院の出身者の方が多いですからぁ、余裕でクリアしてましたしぃ」

冒険者ギルドは魔法学院のバックアップを受けているので、パーティーに魔法学院出身者がいると、信用が高くなるのだ。

ルミ「それにぃ、防御策も一応ありますからぁ」

ルミは額に着けているサークレットを指差した。中央に丸い水晶玉が填まっている。

ルミ「これは、遠見の水晶眼なんですぅ。ここに映ったものは、本部からも見えているんですぅ。だからぁ、わたしが殺されてもぉ、冒険者ギルドが人員を派遣してぇ、必ず犯人を追い詰めますよぉぉぉ?」

ミシア「えぇ?! 殺されるなんて…」

ルミ「大丈夫ですぅ。殺されたことはありませんからぁ!」

ケニー「そりゃ、殺されたらここに居ませんよね…(苦笑)」


ルミ「はいぃ。今回も良い方々とお仕事が出来て、嬉しいですぅ。今後ともよろしくお願いしますぅ」

ルディア「こちらこそ、ありがとうございました!」

ルディアとルミは笑顔で握手した。


・・・


翌日。

ミシア「もっとゆっくりしていけばいいのに」

ルミ「大切な魔液をお預かりしていますからぁ、早く帰らないといけないんですぅ。今度ゆっくりお邪魔させてくださいねぇ」


ルミは大きな白い羽を広げて、冒険者ギルドへ帰っていった。

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