派遣サービス(語り:アーキル)

ルディアが冒険者ギルドの派遣サービスを依頼してから2日ほど経った昼下がり。

アーキルとミシアは、甘いはちみつ亭の庭で鍛錬をしていた。

アーキルは重剣士らしく、両手剣グレートソードの素振り。ミシアは格闘士らしく、パンチとキックの型を繰り返す。


そこに、上空から声がかけられた。

上空の声「もしもしぃ。あなた方は冒険者の方でしょうかぁ?」


アーキル「なんだあ?」

アーキルとミシアが見上げると、建物の屋根くらいの高さに浮いている、背中から大きな白い羽を広げ、短いスカートを押さえている小柄な女性の姿があった。

女性は、羽を広げたまま、ゆっくりと滑空して降りてきた。

足が地面に着くと、羽はすぅっと消える。


女性は目を覆っていたゴーグルを外し、ぺこりとお辞儀した。額に着けているサークレットの丸い水晶玉が太陽の光を反射してきらりと光る。

女性「わたしは、冒険者ギルド派遣サービスの、ルミと申しますぅ」

アーキル「…」

ルミ「どうか致しましたかぁ?」

アーキル「いや、スカートを押さえるくらいなら、地上に降りてから話しかけりゃいいのにと思ってな」

ルミ「まぁ~、心配してくださって、ありがとうございますぅ。でもご安心をぉ。空を飛ぶ者の嗜みとしてぇ、いつ見られてもいいようなパンツを穿いてますからぁ」

アーキル「じゃあ押さえなくてもいいじゃねえか」

ミシア「アーキル、コノハが居ないから、代わりに耳ひっぱろうか?」

アーキル「いや、いい。つーか、ラ族に言われたくねえ」

ミシアはルミに向かって

ミシア「アーキルが失礼なことを言ってごめんなさい、ルミさん。後でコノハに言っとくから」

と謝った。ミシアは甘いはちみつ亭の店長を名乗っているだけあって、意外と礼儀を心得ていた。

アーキル「言わんでいい!」

ルミ「コノハ?」

ミシア「コノハは、アーキルの保護者みたいなものかなー?」

アーキル「保護者じゃねえ!」


ミシア「それより。ねえ、いま羽があったよね!?空飛んでたよね!?」

ルミ「はいぃ、わたしは長距離飛行が取り柄なのでぇ、派遣サービスを任されているんですぅ」

ルミは肩から提げているかばんをぽんぽんと叩く。そこに冒険者ギルドの仕事道具が入っているのだろう。

改めて見るまでもなく、ルミはシルフ人だった。耳はエルフ人と同じように尖っているが、エルフ人の子供のように背が低い。ルミはミシアよりちょっと背が高い程度だ。そしてシルフ人は空を飛ぶ魔法を使える者が多いが、一口に空を飛ぶといっても、速く飛べる者、長時間飛べる者、物を浮かせる者など、様々だ。


ルミ「それで、あなた方は冒険者の方でしょうかぁ?」

ミシア「うん!ボクは看板店長のミシアだよ!」

ミシアは両手の拳を腰に当てて胸を張る。

ルミ「店長さんですかぁ?」

ルミは冒険者だと思ったら店長だと言われたので、不思議そうな顔で首をかしげる。

ミシアはその表情を、演出が足りないから信じてもらえない、と勘違いした。

ミシア「ねえアーキル、今タニアが居ないから、代わりにきらきら演出やってくれない?」

アーキル「誰がやるか!」

ミシア「えー、けち」


アーキルはミシアを無視してルミに説明する。

アーキル「オレたちが派遣サービスを頼んだ冒険者だ」

そしてミシアを親指で指す。

アーキル「こいつは冒険者兼、この宿の自称店長だ」

ミシア「自称じゃないよ~ちゃんと店長だよ~」

ルミ「分かりましたぁ。それでは店長さん、話は宿の中でさせていただいて宜しいでしょうかぁ?」

ミシア「うん!ようこそ、甘いはちみつ亭へ!」


ミシアは甘いはちみつ亭の中にルミを案内する。

厨房にいたライラは、見知らぬ客にすぐ気付いた。

ライラ「あらあら~、いらっしゃいませ~」

ルミ「はいぃ、お世話になりますぅ」

アーキル「う、なんかこのペースで会話されると、イライラする…」

ミシア「あはは、ライラさんにちょっかいかける男の人多いけど、みんなこのペースについてけなくて脱落するんだよね。ついていけるのは1人だけだよ」

アーキル「お、おう…」

アーキルはとりあえずこの2人の会話を意識しないことにしたのだった。

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