魔液の換金(語り:ルディア)

サティ「ところで、皆さんは冒険者なのでしょう?昼間から随分のんびりしてらっしゃるんですのね?」

ミシア「そういうサティだって、昼間からここに来てるじゃないかー」

サティ「わたくしは、届ける物があったから来たんです!」

タニア「とか言って、ライラさんに会いに来たんでしょ?」

ミシア「という建前で、様子を見に来てくれたんだよね?」

サティ「お黙りなさい、貧民ども!」

ミシア「タニアは結構おっぱい大きくなると思うよ?」

タニア「ちょっとお姉さま、恥ずかしいからやめてください…!」


アーキル「あー、ごほん」

アーキルがわざとらしく咳をする。

アーキル「お嬢ちゃん。さっきの質問の答えだが、オレたちは今、休養中なんだ」

ケニー「ええ。今回の冒険で、思いのほか魔液が手に入りましたので」

ケニーは黒い液体が詰まった魔畜瓶を取り出して見せる。

タニアはそれに背を向け、そそくさと厨房に向かった。


ミシア「なんと、ホワイトドラゴンを倒したんだよ!」

サティ「ドラゴン?!本当ですの?!」

ミシア「ほんとほんと。ドラゴンの鼻の穴に入って鼻毛を引っこ抜いて、そこに炎の魔法を撃ち込んで…あっ」

ミシアはコノハの方を見る。炎の魔法を使ったのはコノハだが、コノハはその魔法を嫌っていることを、言ってから思い出したのだ。

コノハ「ええ、そうよ」

コノハは苦笑はすれども非難はしなかった。

サティ「鼻の穴?鼻毛?…ちょっと、何を言っているのか分かりませんわ」

ケニー「ですよねー」

ミシア「でもほんとに倒したんだよ~」

サティ「信じがたいけど、ミシアはそういう嘘は言わないですもんね…」


ゴブリンやドラゴンといった魔物は、倒されると魔液――物質の三態になぞらえて、魔力マナの液体、魔液と呼ばれる――に変わる。

それを集めて売るのが冒険者の主な収入源だ。

魔液を現金に換えるには、2つの方法がある。

ひとつは、魔液を冒険者ギルドに持っていくこと。しかしハルワルド村には冒険者ギルドの店は無い。村から一番近いパーマスの町にはあるが、片道2日ほどかかるので、少々面倒だ。

もうひとつの方法は、冒険者ギルドに来てもらうこと。冒険者ギルドの店が無い場所に店員を派遣するサービスがあるのだ。こちらは少々割高になるが、今回のように換金する魔液がたっぷりあるなら、悪い話ではない。


ルディア「そういう訳で、ちょうど村長さんのお宅にお邪魔しようと考えていたところなんです」

サティ「ああ、うちには遠話の首飾りがあるから?」

遠話の首飾りとは、遠くにある別の遠話の首飾りの持ち主と会話が出来る魔法具だ。

村長の家には遠話の首飾りが置いてあり、村人は必要に応じて使うことが出来る。国内なら3分で銅貨1枚という格安価格だ。滅多に使うことは無いが。


ルディア「ええ、遠話の首飾りを使わせていただいて、冒険者ギルドの派遣サービスを呼びたいと思っているんです」

アーキル「そいつが来るまでは、オレたちは暇だってわけだ。まぁ、戦い詰めってわけにもいかんし、たまには休まねえとな」

サティ「分かりましたわ。それなら、わたくしが家まで案内いたしますわ」

ルディア「はい、よろしくお願いします」


サティ「それじゃスカリィ、帰りますわよ」

スカリィ「うん、サシーおねーしゃん」

ミシア「ばいばーい、またねぇ」

サティ「ええ、また」

サティはスカリィとルディアを伴って甘いはちみつ亭を出よう…として、はたと立ち止まった。


サティ「あら、わたくしったら、まだきちんと挨拶してなかったですわよね」

サティはエスウィングのメンバーの方に向き直る。

サティ「わたくしはサティ、村長の娘ですわ。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

そして深々と頭を下げる。

サティ「ミシアのこと、お分かりの通りの不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」


アーキル・ケニー・コノハ「ああ」「ええ」「こちらこそ」

ルディア「大丈夫です、ミシアちゃんは大切な仲間ですから!」

エスウィングの仲間たちは、笑顔で応えた。

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