サティの思い出(語り:サティ)

ケニー「えーっと、ミシアとサティ…さんは、付き合いは長いんですか?」

ケニーは、なんとか話題を転換させようとした。


ミシア「うん。2人ともこの村の生まれだし、昔から一緒に遊んでたよね」

サティ「そうですわね。ミシアはこんな性格だから、怪我をするまでは、男の子を差し置いてガキ大将でしたわ」

ミシア「そうだったっけ?」


ハルワルド村は小さいので、子供たちはみんな幼い頃から知り合いだ。

ミシアやタニアと年齢が近かったのは、村長サタと村長夫人イーデの娘、サティ。

医士パブリと看護士クスタの息子、ティック。

ロイドとマインの娘、ストリ。あだ名はすとりん。

クアレとエリシスの息子、アーグ。

この6人は、特によく集まって遊んでいた。


タニア「お姉さまは、いつもみんなを引っ張って遊びに連れていってくれましたよ」

サティ「そうですわね。いつもミシアの思いつきに振り回されて、大変でしたわ。大人たちの目を盗んで森へ行ったときだって…」


子供たちだけで村の外の森へ行くのは、禁止されていた。

それなのにミシアは「ちょっとだけなら大丈夫!」と言って、皆を連れ出したのだ。

実際、小さなヘビに襲われた以外は、大丈夫だった。

しかし薄暗くて足場の悪い森の中では、小さなヘビといえど、子供たちには脅威だった。

幼いストリ「うわーん、こっち来ないでぇ」

転んで泣き出すストリ。

幼いティック「早く立って、すとりん!」

先に逃げていたティックが振り返ってストリに声をかける。

ストリに近付こうとするヘビ。その前に、ミシアが木の棒を持って立ち塞がった。

ヘビの目の前で木の棒を振り回し、牽制するミシア。

幼いミシア「あっち行けー!」

幼いアーグ「ほら、今のうちに!」

アーグがストリの手を引っ張り、逃げ出す。

子供たちは事なきを得た。


ルディア「その頃からミシアちゃんは、みんなを守ってたんですね!」

タニア「はい!」

サティ「待って、それじゃミシアが格好よかったみたいな話になってるじゃない!

そうじゃなくて、困らされたって言いたいんですのよ!

そう、泉でずぶ濡れになったのも、元はと言えばミシアのせいでしたわ!」


ある夏の暑い日、ミシアは子供たちを連れて、森の中の泉に向かった。

村の中には小川が流れており、その上流に泉があるのだ。もちろんここも村の外なので、子供たちだけで行くのは禁止されていた。

男の子たちは全裸になって泉の中で泳いだが、女の子たちは服を脱がず、泉の岸に腰を下ろし、足だけ水につけて涼んでいた。

そこで、ティックがサティにいたずらを仕掛けた。水中からサティの足を引っ張ったのだ。

サティは泉に落ちた。溺れるようなことは無かったが、サティは服まで全部ずぶ濡れになり、泣き出した。

幼いミシア「ほらサティ、泣かないで。ボクの服を貸してあげるから」

そう言って、ミシアは着ているものを全部脱いで、サティに渡した。

そして泉に飛び込み、泳いでいってティックにげんこつを喰らわせた。ティックも泣き出した。

そして、サティはミシアの服を着て、ミシア自身は全裸のままサティの服を抱えて村まで帰ったのだった。(男子がミシアに上着だけでも貸そうとしたが、ミシアは怒っていたので受け取らなかった)

(村に帰ったミシアは、色々な意味で大人たちに怒られた)


ルディア「服を貸してくれたなんて、ミシアちゃんは昔から優しかったんですね~」

アーキル「裸で村まで帰るなんて、やっぱりラ族だったんじゃねーか…。ん? ちょっと待て、ミシアの服って…」

ミシアの今の服装は、胸に布を巻き、短いズボンを穿いただけ。一般人から見れば下着同然の姿だ。

サティ「いえ、その頃はミシアもまともな服を着ていたから、それを貸してくれたんですわ。ミシアが今みたいな服を着るようになったのは、怪我が治ってからですのよ…」


怪我というのは、ミシアが誘拐されて拷問された事件のことだ。

誘拐犯から助け出されたミシアは1年近く寝たきりになり、動けるようになってからも魔法の訓練にかかりきりで、皆と遊びに行くことは少なくなった。

サティがミシアに本を届けるようになったのは、ミシアが寝たきりになったときからだ。


ルディア「サティさんも優しいんですね」

ルディアはサティにも微笑みかける。

サティ「そ、そんなことはありませんわ!」

サティはどぎまぎしてそっぽを向いた。

この人の胸の大きさはまあまあですけど、この笑顔にはそれ以上の何かが…。いやいや、それはわたくしの価値観とは違いますわ!

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