エミコとコト子 その1 「雪とプラスチックとチョコレート」



***



 私は馬鹿だった。

 大馬鹿野郎だった。女だけど。


「いや、本当に馬鹿だからねー。受験の直前にイベントに行きますかね? しかも雪の中を始発で。私も人のことは言えないけど、えみちーほどお馬鹿さんじゃないかなー」


 先輩は私にもはや目をくれることもなく、細い指でページで繰った。

 JKらしい黒髪ロングを後ろに一つに結び、アニプレックスプラスで買ったマグカップになみなみと注がれたブラックコーヒーを口につける。細い指で髪を耳にかける仕草はまるでパリのカフェで過ごす令嬢のようだ。


「うぅぅ、仕方がないじゃないですか! 私だって普通に売ってくれていたら行かなかったですよ!」


 先週の日曜日、私はバルバロッサ作戦が如く雪の幕張に電撃参戦した。そのイベントの名は「ワンダーフェスティバル」、通称「ワンフェス」。毎年夏と冬に開催されるフィギュアの祭典である。内容は一言で言うとコミケのフィギュア版といえばわかりやすいだろうか。

 作戦目標はある一体のフィギュアだった。それはかつて販売直前になって急遽お蔵入りになったのだが、廃棄されたはずの僅かな在庫が今になって販売されることになった。無論会場数量限定。お蔵入りになった理由は公表されていないが、噂によればそのキャラが着ている軍服が旧日本陸軍を彷彿させるものであったとか何とか。


「私が悪いんじゃない! 悪いのはメーカーです! 日中の哀しい関係です!」

「はいはい、はい、ここみんな間違っているよー」


 返されたレジュメの束は赤いチェックマークが乱舞していた。


「うげえ…………」

「中国(製品)が好きなら歴史もきっちり覚えないとねえ―――」


 ほわわんとした口調で解説が加えられる。しかし、紡がれる言葉に無駄な情報は一切なく、しかも倍速だ。高校になって声優もやっているとは知っていたがよく舌がもつれないな。


「はい、わかったらやり直し」


 数々の締め切りで鍛えあげられたマルチタスクが私専用のレジュメをプリンターから吐きださせる。その全てが私の脳に定着していない情報であり、その量の多さに眩暈を覚えた。


「旅はもうこれまでだ。冒険をうちきろう」

「えみちー、私がなんだって?」


 微笑むその顔はかつて全国のちびっ子を震え上がらさせた白イタチノロイそのもの。


「もう! えみちーが大馬鹿さんだからこんなことになっているんじゃない!」


 ぷんすか、と擬音語オトマトペがつきそうな感じで頬を膨らませる神野かんの二奈にな先輩は紛う方なき美少女であった。中学時代はヲタ系部活の“姫”として君臨していたが、JKになってサークルクラッシャーぶりに更に磨きがかかっているようだ。


「私はね、春からまたえみちーの先輩になりたいんだよ! この一年間私がどれだけ寂しく思っていたと思っているの? えみちーは私だけのものなんだから!」

「先輩、気持ち悪いです」


 ―――現在、二月十四日。時刻は二十時三十二分。

 二奈先輩が現在在籍し、この春私が入学を希望する「私立萌黄高校」の受験日まであと四十八時間を切っていた―――ちなみに自分の志望する高校の名前に「萌え」の漢字が入っていることを知った時、私は呪いに似た運命を感じた―――。

 しかし、状況は最悪。ワンフェスに雪中行軍をかました結果、見事インフルエンザに罹患。熱こそ下がったものの、熱と一緒に付け焼き刃の知識もきれいさっぱり消えてしまっていた。二奈先輩に泣きの電話を入れると先輩は私を自宅に拉致監禁して今に至るというわけだ。 


「えみちーは本当にフィギュアが好きなんだねー。私というものがありながら」


 レジュメから顔を上げると先輩は液晶ペンタブを片手にため息をついた。

 私はフィギュアが好きだ。それはもう大雪警報を無視して特攻をかますぐらいには。

 ちなみに好きなマンガやアニメのフィギュアを集めているのではなく、フィギュアそのものが好きなのだから質が悪い。むしろ可愛い、カッコいいフィギュアの魅力をもっと知りたいと思ってその原作に触れるというあべこべ人間である。ヲタクというのは概して変人の集まりだが、その中でもおそらく少数派マイナーだろう。理由は自分でもよくわからない。プリキュアの食玩から始まり、気づけばそうなっていたとしかいいようがない。


「ええ、私の夢は世界一の原型師になることなんで。あと先輩気持ち悪いです」


 中学二年の夏、私はひょんなことがきっかけでとあるフィギユアと出会った。

 その三十センチにも満たない「白い少女」のフィギユアは構図、造形から塗装に至るまで全てが完璧であり、フィギュアが持つであろう芸術性と可能性の全てを兼ね備えていたのである。

 しかも、そのフィギユアを作った造形師は―――

 感動した。世界が変わってしまった。

 アニメやゲームの付属品グツズに過ぎないフィギュアがそれだけで人を感動させられることを知った。そして、自分もいつかそんなフィギュアを作りたいと思ってしまったのだ。

 そして、私にとってのフィギュアは買って棚に並べて眺めるモノから自らのイメージを造形して表現をするモノに変わったのである。


「でも、またディーラー登録間に合わなかったよねー。えみちーはいつまでたっても買う側の人間だー。はい、そこまた間違えてる」

「ぐふっ! こ、今回は受験生だったし…………」

「私は受験のときでも冬コミ出したけどねー。ここからここまでもう一度覚え直す」

「こ、高校でも必ず造形部作りますから! そして、今度こそワンフェスにディーラー造形師として参加しますから! なんだったら私以外にも美少女の部員を集めて『マ〇ガタイムき〇ら』に掲載されるような日常系文化部ライフを満喫しますし!」


 二奈先輩はため息をつくと憐れむような視線を寄越してきた。


「えみちー。でも、このままだとその高校生活が風前の灯火だよー?」

「ううー」


 原型師になるならそういう系の専門学校のそういうコースに進む方法もある。しかし、母上様の細腕に頼る我が家にゼロか一〇〇かの進路を進むことなど許されるはずもなく。そこで先輩に相談したところそれなりに偏差値が高くて芸術系に強い、なおかつ奨学生制度が充実した萌黄高をお勧めされたというわけだ。まあ若干騙されている気がしないでもないが。


「えみちー、わかったよ。私も覚悟を決めたよ…………もし間に合わなかったとしても私が枕元で受験範囲の情報を朝までみっちり刷り込んであげるからー」

「えっ!? 今、サラッとすごく気持ち悪いこといいましたよね!?」

「さあてそろそろ疲れた頭に糖分補給をしようかー。ねえ、えみちー。今日は何の日かわかる? わかっているよね?」


 満面の笑みで取り出したのはカカオ臭のする巨大な箱であった。ガンプラのMG(マスターグレード)は優にありそうだ。こういう気持ち悪いところがなければいい先輩なんだけどなあ。


「すっごく甘いよー、口に入れたら蕩けちゃうよー」


 ちなみに私はこのカカオ菓子には強烈なトラウマがあって、以来臭いを嗅ぐのも苦手だった。


「まだ去年のこと気にしてるのー? トラウマなんて素敵な記憶で上書きしちゃえばいいんだYO♪」


 フォーク片手ににじり寄るビッチに貞操の危機を感じたときだった。


 ピンポーン


 チャイムの音からややあって先輩と顔がうり二つのお母様がドアから顔を覗かせた。


「立花さん、やっぱり来ちゃったかー」


 先輩はため息をつくとどこか疲れた表情で階段を降りていった。二人の会話から察するにどうやら中学時代の同級生らしい。


 ―――ねえ、今日は何の日かわかる? わかっているよね?


 ああ、そゆことね。先ほどの台詞がリフレインする。私にとって神野二奈という女は互いのゲスな魂が響きあう中学の気持ち悪い先輩だが、私以外には完璧超人である。あの変態は中学で男に飽きてしまい、今は専ら女の子に手を出しているとか。ほわわんと浮かべる笑みは魅了効果チヤーム付きで免疫のついた私でも油断するとクラっとくるときがある。


「リアル百合キター!」


 それにしてもバレンタインにガチなチョコをもらうとかどんな百合マンガだよ。私は受験への決意をまたしても忘れるとマリメッコのカーテンをちらりと開く。他人様の恋愛事情、特に先輩のものにはバリの一片も興味はないはずなのにひどくドキドキした。

 窓の外はぼたん雪がふわりふわりと振っていた。屋根という屋根は白く化粧され、車の途絶えたアスファルトもまたすっかり白い絨毯で覆われていた。すべての音が途絶えた景色のなかで街灯がひと際幻想的に輝くと、その下に立つ二人の少女を照らしていた。

 一人は二奈先輩。よく見慣れた青い水玉と猫のビニール傘をさしている。

 そして、問題はもう一人は―――。


「―――っ!」


 息を呑んだ。

 その少女は現実リアルに美少女だった。

 少女は街灯の下で傘もささずに立ち尽くしていた。肩に触れるぐらいのナチュラルミディアムは透き通るようで天使の輪が湖面のように鈍く輝く。ところどころ粉雪がついていたが、それもまた幽美であった。先輩を凝視する硝子細工のような瞳も苦しそうな呼吸が漏れる小さな唇も淡く儚げ。白磁に朱を混じらせた肌とどこまでも現実離れしている。

 「美少女」という単語が持つ可憐さとか儚さとかがまさしくそこに具現化されていた。

 私はなぜか窓からそっと離れると震える手でスマホを手に持った。そして、細心の注意を払いつつ、幽霊か雪女のような少女を液晶の中に納める。

 痺れるような頭の片隅で心像イマジネーシヨンが奔流のように溢れ出すのを感じた。今すぐ液タブでトレースしたい。スケッチしたい。ファンド石粉粘土を練りたい。ああ、どうして私は今したくもない勉強をしたくてはいけないのだろう。今なら―――をきっと作れるはずなのに!

 しかし、邂逅の喜びは長く続かなかった。

 二奈先輩が背を向けると街灯の下には放心したように両腕で自分を抱きしめる少女だけが残された。その姿は時間が止まったようであり、まさしく一体のフィギユアだった。

 どきりとした。今にもその顔を上げて盗み見てる私と視線を交わすのではないか。そんなことを思うが、身体が麻痺したように動かない。


「あ―――」


 白いダッフルコートが身を翻すとたちまち小さな足跡を残して街路の奥に消えていく。ふとキラリと輝くものが視界に入ったので何かと思えば紙袋に貼られたラッピングシールだった。ギンガムチェックが丹念に装飾デコレートされたそれは取り残されるといかにも物悲しい。


「えみちー、お待たせー、て、えみちーどこ行く気なの!?」

「身体が鈍っているのでちょっと近所を散歩してきます」


 尚も先輩は何かを言っていたが、私は気にも留めず防寒できるものなら何でも身体につけていく。結果肌の露出は目元のみのフルアーマー状態の完成である。


「うう、寒い!」


 二枚重ねのマスクの下で独語がくぐもる。

 玄関を出るとラッピングの袋はすぐに見つかった。手に取ると僅かに重い。湿っている様子はないのでどうやらお菓子以外のプレゼントも入っているのかもしれない。周囲を見渡すと街灯でぼんやりと輝く白い世界に足跡がくっきりと残されていた。

 どうにも私はモノが粗末にされるのを見ると哀しくなる。このアニミズム根性はフィギュアヲタク故か。余剰パーツ一つすら捨てられないこの性格はいつか痛い目に遭うだろうなあ。

 そうこうしているうちに足跡の持ち主に追いついた。距離にして三十メートルたらず。教室二人分ぐらいスペースの児童公園に百合少女はいた。公園の中心に設置されたパーゴラポーチの下、ピクニックテーブルにぼんやり座っている。

 フードを被り、なおかつ前髪が顔を覆うほど俯いているので表情はよくわからない。


「―――!」


 ぎゅっと握りしめた両掌の中に冷たく輝く銀色を見つけて心の臓が凍り付く。

 まさか、自殺!?

 ダメだ! あんな心が汚染物質だらけのヘドラ女に命を捨てる価値は全くない!

 慌てて駆け出すが足がもつれてつんのめる。しかし、百合少女の方も私の足音に気づいて顔を上げた。そして、マスク姿プラス全身着ぶくれの不審者を見て目を大きく見開く。

 そのときまさに顔から雪に落ちるその瞬間、私は少女の手元に目を奪われていた。刃物にしてはひどく小さいペン型の形状。見慣れたそれはまるで実家のような安心感を覚える。


「それは…………タミヤのデザインナイフ!?」


 うんうん、それ…………使いやすいよね、私も愛用している…………よ。

 そして、私は意識を失った。


「だだ、だいじょうぶですか!?」

「さすが世界のタミヤ…………ぐふっ」

「な、何を言っているんですか、し、しっかりしてください!」


 ダッフルコート越しに伝わるほのかな温もりと柔らかさに任せて本当に意識を失ってもいいかな、と思ったが、相手が本当に泣きそうになっていたので私は立ち上がった。


「よ、よかったですぅ」


 泣き笑いを浮かべた顔を見て少し罪悪感。百合少女の“立花”さんは近くで見ると一層美少女で儚げな姿はいよいよ抱きしめたくなってくる。


「…………いやあ、刃物が見えたからついあなたが天国に行…………えっ?」


 雪まみれのテーブルを見て驚いた。刃物はデザインナイフ以外にもまだあった。同じくタミヤの精密カッターに刃の精度が異なる高級ニッパーが二本、他にも紙やすりの束が整然と並べられている。そして、テーブルの中央にはジャングルジムのように積まれたランナーの山と逆さまにしたフタの上に転がる組み立て途中の四肢―――。


「なぜに…………プラモ?」

「こここ、これはそのう、あのう…………」


 百合少女は俯くと手にしたデザインナイフをぎゅっと握りしめた。前髪の隙間から覗く頬は紅潮し、荒い息とともに白い湯気が唇から漏れる。


「ち、違うんです! これは…………」

「いや、皆まで言わなくていい。わかるよ、『ハイゴッグ』はやっぱり雪と氷じゃなきゃ」

「そうじゃないんです。私は…………えっ?」

「こういう日は雪が似合う機体をつい作りたくなっちゃうよねえ。わかりやすいところだったら『フォースインパルス』とか『寒冷地ジム』、ガンダム以外なら『ブリザードガンナー』、『陸自仕様ハンニバル』もいいかも」

「えっ? ええっ? えーっ!?」

「いやいやいや! そんなにしらばっくれなくても私にはわかるから! ロボ魂でもなければHGUCでもないまさかまさかの旧キットをあえて選ぶとか! 劇中に似てる似てないじゃ最新のロボ魂がそりゃ一番だけど、旧キットは独特の可愛さとか味があるんだよね。」

「いや、私は別に…………家にあったプラモデルをただ…………」

「『ポケ戦』キットに外れなし! とはよく言ったものだね! 歴史的にも『逆シャア』から続く色プラによる色分けとポリキャップによる可動の実現、今のガンプラの礎となったキットだけど、定価は今じゃ考えられない700円! それを選ぶあなたのセンスに何を今更私が言うことがあるというの!? さあさあ、私なんかに構わず作って作って!」

「えっ、はあ、はい。わ、わかりました…………」


 パチ……パチ……パチ…………。

 寝静まった公園にランナーからパーツを切り離す音が響く。単純でありながら心地よいその音に少女の息遣いが加わるとどこか色気めいたものを感じる。マックスコーヒー片手に私はうっとりしつつも、百合プラモ少女の洗練された手の動きに目を瞠った。

 ゲート跡や白化現象を出さないようにランナーの根元をいきなり切るのではなく枝を少し残して切ってから再度アルティメットニッパーで根元を処理していく。それでもダメならデザインナイフや紙やすりを当てる。ゆっくりだが、一つ一つの動きがとても丁寧で好感が持てた。私も何度かプラモを作ったことがあるが、完成品を見たいと気が急くあまり作りが雑になってしまいがちだ。少なくとも―――プラモ初心者というわけではなさそうだ。


「ああ、そうだ。これ落としていたよ」


 テーブルに置かれたラッピングを見ると少女は目を細めた。


「ああ、そういうわけだったんですね…………」


 手の動きが止まると沈黙が落ちる。しかし、苦笑いを浮かべると再びランナーにニッパーを入れた。パチリという音ともに「ハイゴッグ」のバイス・クローがテーブルに落ちる。


「私、初めて人を好きになれたんです。いいえ、好きになったような気がしてただけかもしれません。でも、それを認めたくなくて必死になってチョコレートまで作って、挙句その人の家まで押しかけちゃって…………」


 パチリパチリパチリ―――ランナーからパーツが剥がれ落ちていく。


「わかっているんです。結局、私はその人の好意に酔っていただけだったんだって」


 それは―――世界中のどこにもでもあるようなありふれた話。


「ふう、できました……」


 満足そうに白い息を吐くとテーブルの上に「ハイゴッグ」が立っていた。横幅の広い首なしボディに異様に長い腕とかぎ爪。兵器のはずなのに水色のその姿はどこか愛嬌がある。


「すごくきれい」

「えっ―――」

「そしてやさしい。作る人が作れば素組みでもこんなきれいに作れるんだね―――」


 雪がプラスチックに落ちると零れ落ち、その水滴に街灯の光が吸い込まれる。私はそれを見ながら心の中で溜息をついた。こんなやり方もあるのか。複雑で手のこんだ技術をたっぷり施せば即ちいい作品になると私ははたして思い込んでいなかったか。

 私は立ち上がるとすぐさま自動販売機に走った。雪の中でぼんやりと白い光を放つそれはどこか非現実めいていた。電子音とともに熱量カロリーの塊が吐き出される。


「はい、お疲れ様。あとこれお礼。すごくいいもの見せてもらったから」

「そ、そんな! も、もらえないです! 届けてもらった上に、あ、あんなどうでもいい話を聞いてもらってしまって。も、もし気に入ったならこれはお礼にあげます!」


 そう言って「ハイゴッグ」を渡そうとするプラモ少女に私は首を横に振った。


「ダメだよ。その子はあなたの記憶と想いが込められているんだから」

「でも…………」


 プラモ少女は尚も何かを言いたそうだったが、その沈黙を打ち破るように私のわがままボディから大音量の着信音が響く。そして、相手はもしかしなくても二奈先輩だった。


「げぇっ、やべー! 急いで戻らないと殺される! じゃ、じゃあ、そういうことなんで。あなたのプラモすごくよかったよ! 今度は天気がいい日にまた会いましょう!」

「待って! せめてこれだけでも!」


 公園を出る私の胸の中にあの紙袋が押し込まれた。灰白色のボルドーマフラー越しに弱々しく微笑む美少女の顔を見て私は降参するように軽く手を挙げたのだった。

 

 後日、開けてみると袋の中身はあの日の雪を思わせるような不揃いな「スノーボール」と銀色のケースに入ったステッドラーの水彩色鉛筆―――だった。


「最後の最後まで美少女だったなあ」


 独りごちるとスノーボールを口に放り込む。

 仄かに甘い味が口の中に広がると瞬く間に溶けていった。


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