第59話 さようなら 7

「俊君、先生に話して」と桐山先生がぼくの近くにやってきました。耳に馴染んだ優しい声。だけど、先生は八千代の仲間。

「美枝子ちゃんは? どうしたんですか? どこに引っ越したんですか?」

 どうしても確認しておきたかったのです。

「まあ、この子ったら。マセてるわね」

 八千代もしゃなりしゃなりとぼくの近くまでやってきました。

「子どものクセに、うちの美枝子と……」

 きっとぼくは真っ赤になっていたでしょう。八千代に怒られた日。冬眠ごっこを見つかったあの日が鮮やかに、そして悔しさと恥ずかしさも一緒に蘇ります。

「元気にしているわ。遠いところにいるけどね。あなたのことなんて忘れているでしょうけど」

 本当でしょうか。ぼくには確かめようがありません。

 その時、電話がジリジリと鳴りました。男が取り、低い声で会話をしたのち、今度は白っぽい色をした電話機を八千代の手元まで持ってきました。

「お店からです」

「もしもし……」

 八千代がそう返事したとき、店のドアが爆発したように大きな音とともに内側へ倒れてきました。

 どっと黒スーツの男たちがやってきて、店の中は彼らでいっぱいになってしまいました。

 八千代は手にした電話機で近くの男に殴りかかりましたが、簡単に払いのけられてバランスを崩してしまうのです。

 一瞬の出来事で、八千代も先生も、奥へ逃げる間もなく捕まりました。ほかの店員たちは抵抗しようとしましたが、やってきた連中は圧倒的に強く、あの黒い棒もなんの役にも立たずに奪われて全員が床に座らせられ、拳銃のようなものを向けられていました。

 中華街から追って来た連中なのでしょうか。

 グレ太やガル坊、魚屋さんはどうなったのでしょう。無事でしょうか。こんなスゴイ連中を相手にしたら、勝てるはずがありません。無事で逃げてくれていればいいのですが……。

 男たちはみな黒い手袋をし、顔を覆面で隠しています。悪い連中にしか見えません。とてもぼくを助けてくれる人とは思えません。ここにいるのは鬼ばっかり。

「これを着ろ」

 その中の一人がぼくの前に投げたのは、またしてもあの女の子のドレスです。

「どうして……」

「おまえが男の子である限り、狙われる」

「あなたたちは?」

「それはどうでもいい。着替えろ」

「耕一は?」

「心配するな」

 縄を解かれたぼくは、仕方なくまたドレスを被りました。だけどズボンは脱ぎませんでした。せっかくグレ太たちが用意してくれた体にぴったりの服なのです。靴も走りやすい男の靴のまま。

「まあ、いいだろう」

 そのとき、誰かが店に入ってきて「それだけじゃだめだ、袋を被せろ」と命じました。店内に侵入した男たちが全員、ピリッとなりました。

 背後から耕一も被せられたような頑丈な袋が被せられようとして、ぼくは抵抗しました。

「やめろ!」

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