第53話 さようなら 1
裏口から出ようとしたぼくたち。そこにすでに四人ほどスーツの男たちが駆けつけて来ていました。
そのとき、上からなにかが落ちてきて、路上でバリバリバリッと爆音が弾け、あたりが真っ白な煙に覆われてしまいました。
耕一は「ただの爆竹だ」とへたり込んだぼくの手を引っ張り、一緒に走りました。
「ここは任せて!」
グレ太とガル坊は、狭い路地に仁王立ちし、あたりに置かれた甕やバケツやゴミ箱をひっくり返しています。
その間にも誰かがぼくたちの手助けをしてくれているのか、爆竹が盛大に鳴り響いています。
「おおおおお!」
野太い声がして、裏口から大きな中華包丁を手にした男たちが七、八人現われて、グレ太たちの方へ走っていきます。
「心配するな」
グレ太たちと中華包丁の男たちが路地を走って、スーツの男たちに向かっていくのです。
でも、それ以上、見ている暇はありません。
耕一に手を引っ張られ、その痛みを感じながら必死に足を動かす。ただそれだけです。
路地から突然、二人のスーツ男が現われて、「この野郎!」と叫んだ魚屋さんが彼らを妨害しに突っ込んでいきます。
とうとうぼくと耕一だけになってしまいました。
中華街を抜けて、ビルが整然と並ぶ区画に入っていました。
何事もないかのように落ち着いています。
走っているほうがかえって目立つのです。
ぼくたちは犬のようにハーハーと息をしながら、できるだけゆっくりと歩きました。
二人とも汗だくです。
「船には戻れないからな」と耕一。彼が慌てている姿をはじめて見たような気がしました。脅えを隠していたのかもしれません。
「あの人たち、なに?」
「Gメンみたいなもんかな」
確かアメリカ製のテレビドラマで知られるようになった言葉です。
「『ギャング対Gメン』って映画、おもしろかったぜ。『アンタッチャブル』のまんまだったけどな」
「でも、いいもんたちなんでしょ。味方なんでしょ?」
ぼくたちの「ごっこ」では「いいもん」と「わるもん」しか存在していません。誰もがなりたいのは「いいもん」で最後に勝つのです。
Gメンは、ガバメント・メン。政府の人たち。公権力の人。耕一に言わせれば法律を守る側の人たち。それが正義かどうかは、耕一の考えでははっきりしないのです。
「いいも悪いもあるか。なにがなんだかわからないうちに、ああいう連中に捕まったら、お前はもう……」
「もう?」
耕一はその先を口にしません。
「彼らがもしまともな人間なら、あんな風にいきなり襲ってくることはない」
それは納得できます。ただ、彼らが恐れているのは、ぼくではなく耕一かもしれない。彼がなにをしでかすかわからないので、あのような行動に出ているのかもしれません。
正しいから堂々と大勢でやってくる。ぼくたちは正しくないから、コソコソと逃げている。そんな気もするのです。
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