第48話 おおあわて 6

「よおっ、景気はどう?」

「さっぱりよ。不景気ったらないわ」

「遊びに来てよ」

「カネがあればな!」

 答えているのは魚屋です。

「そんなオモチャで遊んでないで、私たちと遊ぼうよ」

「なに言ってるんだよ、普段なら魚屋なんか、鼻も引っ掛けないくせにさ」とそれは耕一だけに届く声でした。

「モテるね。魚屋のおにいさん」と耕一がからかうと、ケラケラと乾いた声で笑います。

「モテてみたいよ。おれは耕一君みたいにはそっちはあんまり得意じゃないし」

「得意ってなんだよ。酷い目にばっかり遭ってるよ」

 そして二人はコソコソとぼくにも聞えないような声でなにかを話しています。

「ケチ」

「けちんぼ」

「ろくな死に方、しないよ!」

 女の子たちが笑いながら遠ざかっていくようでした。

「なーにやってんのよ!」

 突然、野太い声。

「あんなガキみたいな女のどこがいいのよ!」

 ぼくは、急にうれしさがこみ上げてきました。

 思わずハシゴを駆け上がって、重い木の戸を押し上げて外に出たのです。

「グレ太! ガル坊!」

 ピンクの派手な服を身にまとい、肉まんとあんまんのような姿の二人に、ぼくは飛び込んだのです。

「俊ちゃーん!」

 魚屋と耕一さんは呆然としています。

「大げさだな。何日も会ってないみたいに」と耕一さん。

「何日も会ってないわよ!」

 確かにぼくはひたすら本を読んでいたのでした。

「それより耕一、大変なのよ!」

 グレ太とガル坊は同時に話すので、ぼくたちはただただ機関銃の弾のように飛んでくる言葉を、自分なりに整理するしかありませんでした。

 黒いスーツの男が二人、店に来た。それが怪しいと思っていたら、いつの間にか店の外にクルマが何台も止まり、大勢の黒いスーツの男たちに囲まれていた……。

「こないだは、あたしたちしかいないとわかるとすぐ帰ったのに、今度はずっと居座っているのよ。帰らないよ」

「やつら、交代して新しいヤツが増えたりもして、怖くて店にいられないわ。お客さんも寄りつかないし」

「どうやってここまで?」

 ルートは耕一がぼくを連れて逃げたときとほぼ同じでした。違いは、二階から危険なジャンプをするのではなく、裏口から隣りのビルの敷地へ入り込んで川沿いに逃げて来たのです。

「はあ、喉渇いた!」

 魚屋さんが船内に入って、コップを持ってきました。

 水を二人はゴクゴク飲んでいます。

「お願い。助けて」

「いま、店は?」

「わからないわ。そいつらが火でもつけていたらどうしよう」

「そんなことはしないだろう」

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