第36話 おにごっこ 7
順番に本を読んで行ったのですが、本は四つほどの箱にぎっちり入っていて、抜いたら入れ直すのが大変でした。中には薄いハトロン紙でしっかり表紙を包まれた本もあって、破れないように気を使うのです。
二箱目で分厚い本の間に薄い本を戻すときに、うまく行かないので揺すっていたら三つの箱が前に出てきてしまい、慌てて押さえたのですが、そのとき本箱の裏側になにかがあることに気付きました。そのせいで不安定なのです。思い切って箱ごと床におろしました。
そこには四角い、雑誌ほどの大きさのクッキー缶がありました。外国のもののようです。おいしそうに焼けたクッキー、赤や緑の飾りがついて、大粒の砂糖がまぶされてキラキラ輝いていたり、穴が開いていたり。その絵に誘われて缶を取り出して、開けていました。
中はあまりたくさんのものは入っていませんでした。クッキーもありません。
入っていたのは赤い紙火薬。何枚も束になっています。マッチ箱の横にあるマッチを擦る部分のような焦げ茶色の紙も数枚ありました。マッチ箱は見たことはあるのですが、紙やすりのようなその部分だけの紙は見たことがありませんでした。白い厚紙で作られた封筒が一つ。その封筒は一回り大きな同じような封筒が被さって、蓋みたいになっていました。
その蓋をゆっくり引き抜こうとしましたが、なんだかイヤな気持ちがしたので、やめておきました。元に戻せないかもしれないからです。
紙火薬は兄やその友人たちも、オモチャの鉄砲に取り付けてパンパンと派手な音を立てたりして遊んでいたものとまったく同じもので、ぼくには触らせてくれないものの一つでした。
火薬の臭いがふわっと鼻の奥まで入ってきました。
2B(にーびー)と呼ばれる先端をマッチの横で擦りつけるとシュッと火がでて、放り投げると爆竹のように破裂するものだとか、短い導火線のついた爆竹なども、ぼくたちはまだ幼いので「触ってはダメ」と言われていたものでした。
ですが兄について遊んでいた頃には、とても身近でした。兄たちはそれを派手に破裂させては、戦争ごっこなどを楽しんでいたのです。ぼくは必死についていくか、捕虜としてただ捕まっているだけの役をさせられたりしていました。
パンパンと音が響き、風に乗って火薬の臭いがぼくのところまで来て、けたたましい笑い声があたりを包むとき、ぼくも楽しくなります。ただぼくはそこからは遠い安全な場所にいるのです。いつか兄たちと同じように楽しみたいと願ったものです。
たまにやらせてもらえるのは、壁にぶつけて派手に音を立てるかんしゃく玉ぐらいでした。それもぼくでは力が足りないのか、うまく破裂しないこともありました。
耕一はなんでこんなものを隠しているのでしょう。彼が戦争ごっこをするとは思えません。大人は戦争ごっこではなく、本当に戦争をするのです。
鬼と戦うための武器かもしれません。
そっと缶を元に戻しました。
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