第28話 わからない 4

「今日のオススメは、二百グラムのミニッツステーキです」

 英語とカタカナの多いメニュー。

「ミニッツってのはさ」と耕一はぼくに言うのです。「薄く切って手早く焼くんだ。ミニッツは数分ってこと。空母はニミッツ。人の名前だ。大違いだからな」

 だけど彼はそれは頼まず、デラックスハンバーグを二つ頼みました。コーラも二つ。ぼくの気を引こうとしているのは確かです。メニューもなにもぜんぜん、目にも入っていないし。お腹はグーグー鳴っていても、いまから本当に食べられるのかわかりませんでした。

 氷の入った大きなグラスに入ったコーラと、少し残っている緑色の瓶が運ばれて来ました。

「ちょっと電話してくる」

 耕一はお店の人に両替してもらい、小銭を持って店の公衆電話へ。

 ぼくはしばらくシュワシュワと炭酸が飛び跳ねているコーラを飲みながら、いくつものハンバーグが網の上で焼かれて、盛大に油を飛ばしているのを眺めていました。

「あのあと、オーブンに入る」

 思ったより早く彼は戻って来ました。

 ハンバーグはいったん下げられて、奥のオーブンに行ったようです。白い服を着た数人の男たちがあっちへ行ったり、こっちに行ったりして真剣に料理を作っています。

 悪党たちは、この人たちみたいに、むっつりした顔をしてテキパキと繁雄を誘拐して殺し、ぼくを誘拐し、父母たちを連れ去って空き屋にし、繁雄の家を燃やしたのではないでしょうか。

「わかったことがいくつかある。おまえの家族は引っ越したことになっている。どこへ引っ越したのかはわからない」

「先生に聞けばいいのに」

「ダメだ。あの教師はウソつきだ」

「どうしてそんなことがわかるの」

「ウソをついたじゃないか。おまえの家族が引っ越したなんてさ。そんなわけがないだろう? おまえを置いて引っ越すなんて、あり得ないだろう? 教師はウソをついた。またはウソを信じ込まされている。それにおまえのことをぜんぜん心配していない。むしろ厄介事に巻き込まれたくないって雰囲気だった。あれ以上しつこくやったら、警察に通報されておれは捕まり、おまえは……」

「ぼくは?」

「わからん。この背景がわからないからな。村井の、おまえの友達だった繁雄の家は一昨日、火事になった。新聞社の知り合いに聞いたところ、近所の人は何度も爆発音がしてジェット機が墜落したのかと思ったそうだ。意味はわかるか?」

「わかるはずがないです」

「考えろ。普通の家は爆発しない。繁雄の家は爆破された。放火だ。かわいそうに隣りの家まで巻き添えだ。幸いケガ人はいなかったが、消防車が着いたときには全焼だ。繁雄の家にいた人がどこへ行ったのかも不明だ。記者がせっかくの特ダネだと思ったのに、ただの事故として処理されたそうだ」

 食欲はありません。

「食え」

「食べたくない」

「だめだ。口に押し込むぞ」

 ぼくと彼は白いナプキンを首からさげて、ジュージューと脂が弾けているハンバーグを口にしました。熱い。デラックスなのは付け合わせのポテトがでかいのと、目玉焼きがついているのです。

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