カクヨムでは珍しい戯曲形式の作品。舞台は現代で、天才的なインディー・ゲームの作者と八王子出身の不思議なタヌキ君を中心とした、創作に携わる人たちにまつわる短めの群像劇です。
ゲームという媒体が徹頭徹尾プレイヤーを楽しませようという親切心を要求するのと同様に、この作品も読む人を面白がらせようという気配りに満ちています。その重要な任務のかなりの部分を担うのが誰あろう摩訶不思議なタヌキ君。ひょんなことから主人公の部屋に送り込まれてしまったタヌキ君の奮闘ぶりはぜひとも映像化したい(映像を見たい)軽妙なコメディに仕上がっていて、とある選択に悩む主人公の重苦しい雰囲気を和らげます。
しかしタヌキ君を単なる和ませ役にとどまらせないところが、この脚本の妙味だと思います。作中のゲームという媒体を通して、タヌキ君もやはりある選択を迫られ、そのことがプレイヤー=主人公=タヌキ君=我々読み手を結びつけるレイヤー構造を形作ります。みんながそれぞれ、選択の前に立ちすくんで、ひとしきり考え事をします。どちらに進むべきなんだろうか?
脚本ということなので、誰かに演じられることが前提となった作品ですが、ろくに経験もないくせに自分でも演じてみたいと思ってしまう魅力があります。ちなみに僕は三田を演じてみたいです。あなたは誰を演じてみたいですか?