帰れないあの日

うだるような日差し、歩くだけで汗が滝のように額から落ちる。

「ふぅ、暑いわ」

麦わら帽子を被り、白いワンピースに身に纏った一人の女性が新宿御苑の東屋にやって来た。ここは、有名な某恋愛アニメ映画の聖地だ。梅雨の雨の日だけしか逢瀬をする二人のカップルの孤悲の物語だ。

由香里は座り、ポーチからチョコレートを取り出して口にした。今日は久しぶりのオフの日、先日まで大きな仕事の営業で四国まで行っていたが、商談を無事に纏めて、今朝帰京した。

時刻は昼前、平日だが子供連れやカップルたちが公園を散歩したり、遊んだりしている。また、庭園を写生したり、ポートレート撮影しているグループもいる。

由香里はそんなにぎやかな様子を見ながら、森の奥の池を見ながら東屋まで歩いてきたのだ。木漏れ日の光と水と風、木々の匂いが彼女の心を癒やしてくれる。まるで、自宅の落ち着く部屋にいるようだった。

由香里がしばらく瞳を閉じて静かに休んでいると、ぽつりぽつりと葉に水滴が空から落ちてきた。

「雨だ」

突然の雨に、先程までのにぎやかな声はかき消された。いや、公園からいなくなった。

由香里は突然の雨に戸惑う。なぜなら、傘も合羽もないから自宅までずぶ濡れになりながら帰らなければならないからだ。

「…最悪」

“ラ…オ”と小さな言葉が耳に入った。横を向くと一人の男性が座って、空に向かって怒っていた。

「誰?」

整った顔立ちで、黒く艶のある黒髪はボリュームがあり前髪は整えられていた。白い雪のような肌も綺麗で何よりも黒曜石みたく黒い瞳に、由香里は心を奪われた。






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孤独な天使たちの行方 古海 拓人 @koumitakuto1124

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