楽園都市
廃墟をあとにした二人だったが、進んだ先に乗って来た車が無い。いや、駐車場も道路も無くなっていた。
「リンク、道間違えたのかな?こっちから来たよね」
「ああ、確かにここだったハズだ」
由香里とリンクは、辺りをよく探してみた。もしかして、違う道を歩いて来たのかと必死に探したがやはりなかった。
その上、雨が降っていたのに水たまりもない、草も濡れていない上に小高い丘に上がり見てみると海が広がっているが、道路も無い。廃墟もさっきとは違う建物に変わっていた。
自分たちはまだ夢を見ているのか?それとも…
「由香里、見ろよ。町が見えるぞ
リンクが遠くに見える巨大な建物を見つけた。誰かいるかもしれない、二人は町に向かい足を進めた。
しかし、そこは知っている町とは違っていた。リンクの生まれたロスでも、由香里の故郷の東京の新宿の町でもない。根本的に違うのだ。巨大な摩天楼はレンガ造りでどこか昔のヨーロッパの町並みのようだった。ガラス張りの建物は巨大な工場や工事現場のようだった。
さらに、
「水路を流れているのが、見て、エメラルドグリーンみたいに濃い緑色だわ。まるで、メロンソーダみたい」
「由香里、触らない方がいいぞ。もし、有害なものだったら…」
リンクは言葉を止めた。
なぜなら、水路を魚が鯉みたいなサンマみたいな魚たちが泳いでいた。
「いったい、これはなんなんだ。池に藻が溜まっているわけでもないのに、しかも、嫌な臭いがしない」
「ねぇ、リンク、あそこの時計を見て、どれも時間がバラバラだわ」
時計塔と言うより、工事現場の足場ような繊細な造りをした階段や柱の建物は時計が乱雑に外壁に設置されている。さらに、どれも時間がバラバラだった。あるものは秒針が7時だったり、10時30分、3時、8時など昼なのか夕方なのかまったくわからなかった。
いったい、ここはどこなのか?
それに、先ほどから由香里もリンクもこの町に自分たち以外に誰もいないのはすぐにわかった。なぜなら、人間の気配がしないからだ。
「もしかして、俺が入ったホテルはテーマパークのホテルか何かだったのか?」
しかし、テーマパークなら廃業してさびれていても、有名なら看板などが来る時に道路にあるハズだ。
でも、雨だったから見落としたのか、何もなかった。それに、廃業したテーマパークでも、建物も綺麗で何も朽ちていない。最近造られたものならまだオープン前、だったら、建設や塗装、足場の職人さんたちがいるが、人の気配がまったくしない。休日だからしていないとかそんなのではなかった。
やはり、ここは自分たちが元々暮らしていた世界とは違うのか?だとしたら、ここは?
「あ、よかった。人がいるよ」
「やったね」
二人の男が現れた。
「あれ、貴方たちは?」
「誰だよ。お前たち?」
由香里とリンクは突如現れた者たちに警戒心を抱いた。なぜなら、同じ日本語をしゃべるが素性も考えもわからないからだ。
「あ、そうでした。自己紹介がまだでしたね。僕は、立花真心といいます。まこって呼んで下さい」
「俺は、遠野辰之介、たつのすけでもたつ、好きな呼び方をして下さい」
まことたつは、それぞれ地方の出身なのか、どこか由香里みたいな関東の方言ではなく訛りが少しある。
まだ、都会に出て真新しい生活を送り出したばかりのような感じがした。しかし、なぜ、ここに?
「俺とまこは、秩父の聖神社へお参りしに来たんだ。だけど、ご利益のある洗い場が社から離れた森の中にあるって聞いて探しに行ったが迷ってしまって、気が付けばここにいたんだ」
「この不思議な街は何なのか知りませんか?遊園地みたいだけど、人がいなかったから」
しかし、由香里とリンクは顔を見合わせて不思議がった。
秩父って、埼玉の山あいにある町だが、恋愛青春アニメや漫画の聖地で有名だ。
まこたちがお参りした神社も金運アップのパワースポットだが、由香里たちは都内から横浜を超えた海沿いの道路から来たと言っていた。
同じ関東圏だが、なぜ、そんなに離れた所、しかも、驚いたのは、
「由香里とリンクは、なぜ、夏服なの寒くないの?まだ、一月だよ」
「そおだ」
まことたつは、ダウンを羽織ったり、カシミアのセーターやマフラーをしているが、由香里はワインレッドの半袖と白生地に黒薔薇の刺繍がされたロングスカート、リンクに至っては白の半袖Tシャツにジーンズと赤いスニーカーと言ったロス出身だが、ニューヨーカースタイルだ。
「は?何言ってるんだ。もう、七月末だぞ。今年は長雨だが来週からはカンカン照りになるってニュースで言っていたぞ」
リンクが返す。
由香里がそれらの会話からあることに気付いた。
「たつ、まこ、二人が秩父に訪れたの一月と言ってたけど、今年の一月?」
「うん、2020年の一月だよ」
「元旦だよ」
由香里とリンクは、目を合わせて驚いた。その時なら、自分たちは年末のフェスに出場して錦を飾り、元旦は宮古島でバカンスしていた。どうやら、二人は同じ時を生きているが時間のズレがある。
「問題は、何でここに来たのか、この場所が何なのかだ。俺ら四人以外はこの不思議な町には誰もいないのか?」
リンクは要点を整理する。とりあえず、町を調べて手がかりを探すことにした。
まこが、
「由香里とリンクって、さっきから気になっていたけど、もしかして、ビートラヴァーズことビーラブのユカリとリンクに似ているけど、違うかな?」
まこの一言に、二人は一時口を閉ざした。半年前、あれだけ希望と大志に燃えて輝いていた自分たちがいた。
「もし、そうなら、僕、二人のファンなんだ。デビュー作のラッシュナイトは今でも挫けそうな時や悲しい時はそれを聞いて元気とやる気を出すんだ」
屈託のない優しい眼で彼は言う。
そうだ。半年後の騒動をまだ彼らは知らない。
由香里とリンクは目を合わせて真実を言わなかった。
なぜなら、悲しい現実を言えば彼の思いを壊すからだ。
「まこ、あまり初対面のお二人に失礼だろう。いくら、憧れの人たちに似ていても、本物でも、人気絶頂のアイドルのユカリさんとリンクさんなら、俺らにすれば雲の上の人たちだ」
たつが制止すると、まこは子供の様にむくれる。
だけど、どこか笑えた。自信たちをそこまでリスペクトしてくれているファンに出会えたことがすごく嬉しいかったからだ。
ゴミ箱に廃れた、問題を起こしたからと捨てるにわかファンよりは100倍価値があり、救いになる。
大勢いても真実のファンが一人いれば…
由香里とリンクに少しだけ笑みが戻った。絶望のそこにいたのに少しだけ明かりが差した気がしたからだ。
やがて、四人の前に水路と階段が入り混じる迷路のような広場に辿り着いた。どうやら、町の中心のようだが、ここにも彼ら以外の人の気配はしない。
いったい、ここはどこなのか?
なぜ、こんな不思議な町なのか、彼には見当が付かなかった。その時、彼らの耳に優しい音色の音楽が聞こえてきた。
この謎の楽園都市は、いったい何なのか?
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