五十夜   道標

夜、広間に集まったラッシェオ、ルル、ティア、フーガ、ユリ、ピースは四人から悲しい事実を聞いていた。

「クレアちゃんが…」

「嘘でしょう?」

「クレアお姉ちゃん、クレアお姉ちゃん」

「うわ~ん」

ルルとユリ、ティアは抱き合って慰めあった。

ラッシェオとフーガも涙をこらえきれず男泣きした。

ピースは、

「クレアちゃん、従弟くんが心配だと言っていたが、その子がヴァンパイアになってしまった経緯はわからないが、何故モンスターなんかに、そして、クレアちゃんと二人でどこに消えたんだろうか…?探しに行きたいが、場所が突然変わるのでは…」

悔し涙を流すピース…ほんの数日しかいなかったが、仲間の喪失と言うダメージは大きかった。

しかし、いつまでも泣いていても何も変わらない。何も始まらない。

「よし、皆、今夜だけはクレアちゃんを思い出してたっぷりと心から泣いてあげよう。そして、朝日が顔を出したら、もう一度、新たな道標を作ろう。これから、俺たちがどうするか…考えよう。なっ!!」

ピースの言葉は少しだけ皆を救った。

とくに、トモエたちはずっと苦楽を共にしてきた友達を、仲間を無くしたのだから…

「ピース兄様」

その後、ラッシェオとルルがしまっていた徳島の銘菓を取り出して、

「クレアお姉ちゃんの送別会をしよう」

「大好きな従弟のトルギスくんに会いたかったんでしょう。ようやく、二人だけの、インドラお兄ちゃんとハスお姉ちゃんみたく、敦子さんと尚樹さんみたく一緒になれたんだから…」

涙で喋れなくなる二人、そして、他の四人も小さなカップルたちに促されて、涙混じりに笑みを浮かべて、送別会、いや、クレアとトルギスの二人が家族と笑顔で映るペンダントの周りにお菓子やジュースを飾り、花をいけて、マリッジカードを手作りで作り、フーガの音頭でジュースの入ったグラスを傾けた。

「クレアちゃん、トルギスくん、結婚おめでとう」

そして、みんなで飲み干した。

祝福の涙と一緒に…

夜が深まった頃、ラッシェオはバルコニーに立ち、夜風を浴びていた。

瞳から涙はなくなり、キリッとした引き締まった顔になり、何かを考えていた。

「眠れないのかい?」

フーガは優しく彼に声をかけた。

「おじさん、なんだか、いつからか分からなくなっていたんだ。ルルやおじさんたちとひと夏の思い出が作れるって期待していたのに…」

「ラッシェオくんは、現状が嫌かい?」

「ううん、楽しいことがあるから、何よりルルが…」

「ルルが…」

「いつも以上に笑顔で笑っているのが見えて、僕の知らないことがわかって嬉しいんだ。だって、学園で僕たち、いつも周りにハブられているから…誰も気にせず、気を遣わず笑っている彼女が見られて、僕は嬉しいんだ…それが、僕の道標なんだ!!」

横浜の時も言っていたが、十一歳の少年がここまで、自分の宝物を誰よりも思ってくれていると思うと瞼が熱くなった。

夜の海風はそんな漢の瞳を優しく拭いてくれた…そして、胸の内に秘めていたある思いを彼に話した。

「ラッシェオくん…」

月明かりの下、二人の話は波音にと海風にかき消された。




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