十六夜   暁の笑顔

(どれだけの時間が経ったのだろう…)

フーガは目を覚ました。昨夜の悲しい過去を胸から吐き出した…もう、何も恐れることはなくなっていた。

さざ波と一緒に少しずつ東の空が明るくなり始め、瞼にはある記憶がよみがえった。それは、この世界で初めて自身が最高の宝物を手に入れた時の事だ。

ルルが生まれた日の朝と一緒ね」

「そうだな」

照明は消しているが、薄明かりに見える妻の顔はこの世界で何よりも美しく見えた。瞳の輝きも髪の匂いも万物の何にも例えることが出来ない。

しかし、これだけは言おう。

「美しき星の夜に降り立った女神様のようだよ」

「やだ、からかわないでよ」

ティアが少し照れる。

笑い合う二人だったが、その間には大切な宝が寝顔をしていた。それはあの日も今も変わらなかった。

一瞬だけ、月明かりが差し込んだ。

「まったく、バカ息子の台詞には驚かされるぜ。いきなりナツヤスミだなんて言うからな」

「本当、あなたにそっくりだわ」

「ちがいね」

「ふふ、ピースとユリのいい所が似たのたよ」

ティアが素晴らしいプラス思考を口にしてくれた彼を褒める。それはフーガも同じ意見だった。

彼は長年悲しい思いをしていた自分たちの気持ちになって言ってくれたのだ。人間として一番大事だと思っているからだ。

「ナツヤスミなんて経験しなかったから…ラッシェオくんはそれを私たちに体験して欲しいと願ってくれた」

朝日が昇り、明るくなる。そこで話しているのは大人たちではなかった。ラッシェオとルルと変わらない年頃の少年と少女が四人いた。

起床した子供たちは、塔の広場で波音を聞きながら、朝食を取る。

「美味しいね」

「ああ」

「新しい朝は気持ちいいわ」

「うん」

何より清々しく、いつも以上に朝が新鮮だった。

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