十三夜  黒と白の町

恐る恐る赤レンガの階段を登ると広場に出た。

柵があり、近づくとそこから先には、巨大な…

「海だ!!!」

どこまでも続く大海が広がっていた。

潮風が吹き、波音が聞こえる。

「港町では無いみたいだな。船着場や灯台がない。あるのは街灯だけか…」

階段の上に小さな踊り場と街灯があるが、まずは、二つの建物をしらみつぶしに探すことにした。ここは誰がいるのか、いや、誰が造ったのか、何という町なのか、とりあえずは日記や家計簿、住民票、地図など情報になりそうなものを探す。

「お邪魔します」

ラッシェオとピースが誰かいるかわからないが、恐る恐るドアを開けるが、人の気配はない。いや、まず、生き物の気配すらなかった。

「ゴホッゴホッ!!」

「ゲホッ!!」

全員で口や鼻を塞ぐほどの悪臭が部屋全体を支配していた。

「だいぶ長いこと空き家みたいだな」

「埃が酷い」

「本当、臭い」

ドアを開けた途端に、そこいら中に不快な臭いが蔓延し、埃が部屋一面に覆われているのは長期間掃除されていない証だ。歩いただけで埃が宙を舞った。

簡易的なマスクをして部屋を探したが、煉瓦造りの階段を上がり、二階の部屋の扉を開けると、中にはボロボロの机や扉が壊れたクローゼット、脚が壊れて沈み込んだベッドなどしかなく、廃虚になり一年いや五年以上は経っていると誰もが予想出来た。

手分けして探してみるが…

「骸骨だとか死体とかがないのが救いだったが、日記や帳簿みたいな情報らしいものは何もない」

「テレビ、パソコン、ラジオやステレオ、掃除機や冷蔵庫などの文明の利器はなにもないわ。あったのはランプやいくつかのロウソク、絨毯やソファーだけ、それと調理器具と窯やらお鍋やお皿だけだわ」

「住人はいたけど、何かの理由でここを捨て、どこかに引っ越した…そんな所かな」

「だけど、放置されている建物だけど…」

すると、ラッシェオが下の町を見る。

「ここにいなくても、もしかしたら、下の住宅街にはいるかもしれないよ」

彼は一つダメでも、“もしかしたら”と希望を持ってみんなに進言した。

「情報もない、食料や武器、水もない。これだけここを探しても素寒貧なら、下の町も同じかもしれないが、一縷の望みをかけて調べてみるか…」

「だけど、注意して行かないと…」

「人食いモンスターとかがいるかもしれないしな」

「やだ。怖いこと言わないでよ」

怖がりのルルがビクっとする。

「だったら、護身銃と護身刀を持って行こう。防御チョッキにヘルメットもあるよ」

ラッシェオが、車に人数分の護身具があるのを出発前に確認していたので、トランクから取り出して全員に装備を渡した。

ちなみに、刀や銃と言っても殺傷能力は極めて低い、どちらかと言えばスタンガンやテーザーガンのように微量の電気で気絶させるくらいのものだ。

モルディーの世界で、本物の殺傷能力のある武器を持てるのは、警察官や軍人、傭兵、海上警備隊、空港税関検査官だけとなっているが、それ以外の人間は所持を禁止されている。

六人は頭から足先まで装備に身を固めて、階段をゆっくりと下りて行く。

下に並ぶ住宅街に向かうとそこは上の二つの塔とは全く違う造りだった。煉瓦造りの塔と違い、

「木や紙で作られた家だ。こんなの見たことがないぞ」

「でも、かなり、規則正しく計算されて道幅も広がっている。かなり高度な建築技術だ」

「レンガじゃないけど、屋根もしっかりとした石か何か固いもので雨風を防げるようになっているわ」

モルディーにない世界感に圧倒される六人、だが、ここにも人や動物の気配がしない。

まるで、死んだ世界のようだ。

「災害や戦争で全滅したようかしら」

ティアが周りを見て言うが、それは考えられない点がいくつもあった。

まずは、建物は綺麗なままだし、塔の部屋も放置されていたが酷い荒れようではなかった。

自然災害も考えられなかった。嵐や地震、津波などが起こり、全滅したならここみたいな小さな町をなどひとたまりもない。もっと、激しく壊れて、物が散乱したり、遺体などが転がっているはずだ。

「戦争なら、戦車や戦闘機など兵器が放置されているが、ここに来るまでそんな残骸などもなかったしな…」

「感染症が流行したのかしら?」

「でも、エアー測定では安全が表示されていたから大丈夫なはずよ」

だが、町に入る前にユリが有害物質や病原菌がないか簡易的だが測定器でチェックしたが、細菌反応はなかったので安全と確認された。

何故、人がいないのか、空を飛んでいる鳥は見たのに…川に魚たちは泳いでいたのに…なぜ、他の人間や動物はいないのか…?

「ここを新しい拠点にするか…?ここなら、雨風しのげる建物がある。下の町は広いが何があるかわからないから、塔の方にしよう」

フーガの提案で、塔と町を拠点にまた新たに調べることにした。

夜。

六人は焚き火をしながら、これまでのことをおさらいすることにした。

「俺たちのいる塔と町、西の方に森とそして、川、あとは大草原と」

ピースが地面に地図を書いた。

ユリが落ちていた小石にマジック書いて造った森、塔、町を置いてジオラマみたいにしてわかりやすくした。ラッシェオとルルは青と緑の紙を切って造った草原と川、海、ティアとフーガはお菓子の空き箱で自分たち人物を、それでわかりやすくした。

「まず、僕らが来たのがこの森からこの町までは三十分ほどしか経っていない。それよりも、この世界は時間が僕らのモルディーとは違うと言うこと。こうしている間にモルディーがどれだけ時間が経っているのか…?」

「タイムスリップやワープみたくして、元のモルディーに戻れても時間が何日、何年経っているのかがわからないわ。もしかしたら、誰も知っている人のいない世界になっていたら…」

確かにまだ、一日しか経っていないが元の世界に戻れても、自分たちの家や町は、会社や学校はあるのか、顔を知っている人たちはいるのか、時間が経って見知らぬ世界になっているかもしれない…そうなれば、自分たちは漂流者のままだ。

「今夜は遅いし、朝日が昇ってから考えよう」

不安な考えは夜に持つと闇に呑まれてしまう。

一旦休もう。今日はずっと走り続けたんだ。

ラッシェオ、ユリ、ピースのシュバルツ家。

ルル、ティア、フーガのヴァイス家。

黒と白の家族は波音と夜風の子守唄を耳に…眠りに付いた。












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