九夜  始まる謎

ティアとフーガ、ピースも目を覚まし、ラッシェオとルルも起き上がる。

テントから少し離れた所にある小さな池で、綺麗な水面で顔を洗い、歯を磨く、または、目覚めの一杯にその澄んだ水を飲む。

「気持ちいいな」

「うん」

「今日は夜には帰らないといけないと思うと寂しいな」

「また、来たいね」

「今日は山に登って、丘へピクニックだな」

シロータマウンテン、この辺りでは比較的に登りやすい小さな山だ。

六人はテントやバーベキューの道具を車に片付けて、登山ウェアやハイキングシューズや帽子を着て、虫除けスプレーをかけて、弁当をカバンに入れて山へ向かった。

「坂はきついから気をつけてな」

ピースが注意すると、その瞬間、

「どわっー」

豪快にスライディングをした。

「父さん」

「おっちゃん、大丈夫?」

「ピース」

皆が心配すると「大丈夫だ。悪いな驚かせて」と笑顔を浮かべる。

注意して、山道を歩くとこの辺りだけにしか咲かない「ワスレナアゲハ」と呼ばれる黒い花を見つけた。

夏にしか山に咲かないレアなものだ。

「綺麗だな」

「国指定天然記念物だから採取は出来ないけど、ジンクスであの花を見つけたら、楽しく美しい記憶が残る夏になると言われているわ」

ティアは植物学が得意で花や果物、有毒な草花は一通り知っている。薬になるものや食料に調理出来ることも、ルルは普段は天然で運動音痴な母だが、知識に精通している母を自慢に思っていた。

(お母さん、お花や木の事になるとイキイキしている)

木漏れ日の林道を歩くと頂上に到着した。目的地は緩やかな優しい風が吹き六人を歓迎してくれていた。

「遠くの方まで、僕達の町まで見渡せられるよ」

「わあ、市の中心にあるセントラシティービルの展望台みたいだわ」

「本当、お金を払わずに大自然を一人占めできるなんて、この世の最大の贅沢だわ」

「あぁ」

「六人だけのパラダイスだわ」

「そうだな」

最終日にこの世界の絶景を見ることが出来て大満足な二つの家族は、そこでシートを広げてお弁当を出して楽しくランチにする。

緑の優しい絨毯に心地よい風に抱かれて、笑い声がする。大好きな料理が心を潤してくれる。

「ユリのサンドイッチは美味しいな」

「ルルのクッキーもうまい」

「ティアの淹れてくれたお茶やコーヒーは美味しいな」

夫たち三人の優しい褒め言葉は妻たちを喜ばせた。愛する男性からの幸せな言葉を貰えたら嬉しいことはない。

妻たちは満面の笑みになった。

だが、笑っていられる時間もあとわずかなのだと思うと、誰もが少し寂しさと不安があった。

だからこそ、最後まで笑った愚痴も苦しみも言わず笑顔を絶やさなかった。

それが、次につなげられるからだ。

その後は、走ったり、ボール遊びをしたり、バトミントンをしたりなどをして遊んだ。大人たちは童心に帰り、ラッシェオとルルは友達と遊ぶかのように両親たちと楽しんだ。

終わりの時が来た。

六人の家族はキャンプに戻り、テントを片付けて、ゴミを集めて、かまどの焚き木のあとに土を被せて火事が起こらないように防止をした。そして、夕日を眺めてさよならをした。

「さあ、町に帰ろう」

「うん」

「はい」

六人の乗った車は家路に付く、運転はフーガで、ピースは隣で地図を見ながら、早く帰れる道を確認している。

ティアとユリは世間話をし、ラッシェオはルルと仲良く肩を寄せ合ってお互いのオススメの音楽をヘッドホンで聞き合っている。

両親たちはもちろん仕事だが、ラッシェオとルルも夏休みだが、成績の悪い二人は嫌でも補習に参加しなければならないので、明日から二日間は学校通いだ。

(あぁ、意地悪なモラハラ発言を聞きながら補習だね)

(ルル、二人で頑張ろう)

目を見つめ合う二人。

せめて、今だけはこの時が永遠に残る時間になってほしいと願った。

「あれ?」

フーガはブレーキをかけた。

「アナタ、どうしたの?」

「フーガ、どうしたんだ?」

「お父さん」

「道がないんだ。来るときにあったはずの舗装された道路がないんだ」

え…?

「そういえば、来るときに見えた自販機のコーナーが見当たらないよ」

ラッシェオも違和感を伝えた。

他にも、キャンプ場へ向かう時にあったはずのお店の看板や道路標識や街灯もない。

もしかして、道を間違えたのかと不安になったが、途中までは紛れもなく舗装された道路を走っていた。それに、キャンプ場から町までの道は一本の直線道路だった。どこかで曲がったりはしなかったはずだ。

ここはどこだ…?

















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