八夜  終焉の園

六人は気持ちよく寝息を立てている。

ラッシェオとルルはテントの隙間から月明かりと星の輝きを見ていた。

「綺麗だね」

「ルルの方が綺麗だよ」

「ありがとう」

そんな会話で小さく楽しむ。

彼はこっそりとルルを外に、月明かりの下に連れ出した。

「キャンプも明日で終わりだね」

ルルが寂しげな目をして言う。

すると、ラッシェオは巨大な満月に手を伸ばして、

「このまま、月の世界に行きたいな。そしたら、ルルとずっと一緒なのにな」

「ラッシェオ、私ね。もう、あんな場所に戻りたくないの…このまま夏休みが、いえ、この時が終わらないで欲しいわ」

夏休みが開けたら、また、辛い時間が始まる。

「カラオケやボーリングみたいに延長出来たらいいのにな。それとか、ゲームみたくリプレイできたらいいのにな」

ラッシェオが近くの大きな石に腰を降ろし、ルルも隣にそっと座った。どれくらいの時間が経ったのだろう。二人は何も喋らなくなったが、ラッシェオは身体の底からの激しい鼓動に駆られた。

振り向いた時に、ルルのサファイアのように蒼い瞳とラッシェオのルビーのように紅い瞳が重なりあった時だった。

優しく甘い匂いが二人の心も身体も包み込んだ。

夜風になびくルルの華奢な腕と成長し始めた胸が、彼女の全てが入り込んできた。

「ルル、お願いがあるんだ。今宵だけでいい、僕を蝶にしてほしい。大輪の華になって受け止めてほしいんだ。甘い蜜をくれないか…?」

十一年しか生きていない二人、カップルとしてはまだまだ未熟だが、彼なりの誘い《いざない》だった。

ルルの答えは…

「あなたは蝶じゃないわ。闇夜を照らす月世界の王子様、そして、私は星を輝かす王女よ」

彼と唇を重ねた。

終焉の園で…二人は小さいが永遠の愛を誓ったのだ。

「ふあー、朝ね」

ユリが身体を起こすと夫と息子を起こそうとする。しかし、息子がいつも以上に嬉しそうな寝顔を浮かべていた。

「幸せそうね。それにルルちゃんも、王子様とお姫様はどんな夏の夜の夢を見ているのかしら?」

ラッシェオとルルの寝ながら笑みを浮かべている。それは天使のように美しいが、ユリはルルが愛おしく思えた。なぜなら、普段は夫と息子の男二人と暮らしているのでティアが羨ましく思う時がある。

(ラッシェオ、早くこのルルちゃんに純白のドレスを着させてあげなさいよ)

母が息子に小さなキスを贈った。








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