四夜 夏風に踊る君を抱きしめたい

「う、う〜んん、朝だわ」

ルルが背伸びして身体を起こした。 

(昨日はたくさん楽しんだのが、夢みたいだわ)

しかし、夢のような時間以上にルルが目覚めがいいのは、まだ、理由があった。

それは、毎朝ベッドから起き上がってもぬいぐるみやお人形しかないが、今朝は違う。なぜなら、未来を共に生きたい大好きな男性ひとが隣で美しい寝顔でいてくれる。仕事でなかなか家にいない博識でたくましい父がいる。料理とガーデニングが得意な母がいるからだ。

「楽しい時間はそんな風に思えるね」

ラッシェオが目を覚まして身体を起き上がる。

「おはよう。ルル」

「ラッシェオ、おはよう」

両親たちが寝ているのを確認し、こっそりと寝起きのキスを優しく交わし、夏風が優しく吹く夜明けの草原を二人で歩いた。

「気持ちいいね」

手を繋いで歩くルルとラッシェオ。

「本当だな。ルルと朝陽の中を歩けるなんて最高だ。今まで何度も夢見た事が今叶った気がするよ」

二人の真上には宇宙まで行けるかのような青き世界が無限に広がっていた。

「ここには意地悪な子たたちがいない、私たちだけの天国だわ」

「エマのクソババァや他のクソメイトたちの顔を一ヶ月以上合わせなくていいから、気持ちが楽だよ」

「ほんと…」

普段から抑え込まれているので、イッキに解放感に浸る。

“このまま、ずっと、この時が止まってくれたらいいのに…”

ラッシェオは密かに心の中で祈った。

「どうしたの?」

「いや、昨日のルルのいつものスク水とは違う水着姿が拝めて、よかったなって…」

照れ隠しに言うラッシェオ、

「もぅ、エッチ!」

ルルが彼の肩を叩く。

「ハハハ、いってー」

笑い声を出しながら、朝陽の中に二人は消えていった。

「よし、みんな、しっかりと掴まっていろよ」

「この川は流れが早いから注意して行くぞ」

「はーい」

「父さん、気を付けてね。おじさんも」

「貴方、お願いね」

「ピース、フーガ、よろしくね」

今日は川下りだ。

夏の日差しと風、透明の水面の輝きを眺めながら六人のカヌーは流れに乗り、出港した。

やがて、流れは強くなり、スピードが出始めた。

そして、どんどん加速して行った。

「わあ、きれい」

「やっほー、楽しい。遊園地のウォーターアトラクションみたいだ」

「きゃああ、楽しい」

「フーガ、ピース、最高よ!!」

「アハハ、俺らも迫力あるぜ」

「全くだ」

十キロほど進んだ。すると、そこには巨大な草原と小さな池が点在する場所に出た。フーガの話だとここは大昔の地殻変動で地底に溜まった水が長い年月をかけて大地を侵食して地上に出てきて誕生した場所だ。

そして、今や隠れたダイビングスポットだ。

「よし、みんな。潜るぞ」

「オッケー」

「行きましょう。水底の世界へ」 

ゴーグルやボンベを着装し、入水する。そして、広がる目の前の世界に全員が瞳を輝かせた。

“キレイ!!!”

そこには、天上から差し込む陽光と水鏡が光る美しいAQUA WORLD〜水中世界〜が広がっていた。

魚になった気分で底の方まで潜ってみる。いや、正確にはその何にも囚われない世界の魅力に惹き込まれていたのだ。

「人魚姫になった気持ちだわ」

ユリが魚たちを触り、岩に触れる。

「人魚姫と言うより、大河の女神だろ」

ユリの長い黒髪を触るピース、しかし、夫のスキンシップが恥ずかしいのか、「ちょ、子供たちもいるのに辞めてよね」と怒るが、それは、今朝のラッシェオがルルとしたようなやりとりがなされた。彼の好きな人に対してのスキンシップは父親からの遺伝のようだ

息子もルル一家も少し頬を紅くする。

六人はそのまま、水鏡のような世界を進む。














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