四夜 夏風に踊る君を抱きしめたい

「う、う〜んん、朝だわ」

ルルが背伸びして身体を起こした。 

「昨日はたくさん楽しんだのが夢みたいだわ」

隣には、いつもベッドから起き上がってもぬいぐるみしかないが、今朝は違う。なぜなら、愛する両親と未来を共に生きたい男性ひとがいるからだ。

「楽しい時間はそんな風に思えるね」

ラッシェオが目を覚まして身体を起き上がる。

「おはよう。ルル」

「ラッシェオ、おはよう」

夏風が優しく吹く夜明けの草原を歩く二人、そこはどこまでも続く巨大な青空が、宇宙まで行けるかのような青き世界が無限に広がっていた。

「エマのクソ担任や他のクソメイトたちと一ヶ月以上顔を見合わせなくていいから、気持ちが楽だよな」

「ホントだね。ここには意地悪な子たたちがいない、私たちだけの天国だわ」

悪口だが、普段から抑え込まれているので、イッキに解放感に浸る。

“このまま、ずっと、この時が止まってくれたらいいのに…”

ラッシェオは密かに心の中で祈った。

「どうしたの?」

「いや、昨日のルルのいつものスク水とは違う水着姿が拝めて、よかったなって…」

照れ隠しに言うラッシェオ、

「もぅ、エッチ!」

ルルが彼の肩を叩く。

「ハハハ、いってー」

笑い声を出しながら、朝陽の中に二人は消えていった。

「よし、みんな、しっかりと掴まっていろよ」

「この川は流れが早いから注意して行くぞ」

「はーい」

「父さん、気を付けてね。おじさんも」

「貴方、お願いね」

「ピース、フーガ、よろしくね」

さあ、川下りに出発だ。

夏の日差しと風、透明の水面の輝きを眺めながら六人のカヌーは流れに乗り、出港した。

やがて、流れは強くなり、スピードが出始めた。

そして、どんどん加速して行った。

「わあ、きれい」

「やっほー、楽しい。遊園地のウォーターアトラクションみたいだ」

「きゃああ、楽しい」

「フーガ、ピース、最高よ!!」

「アハハ、俺らも迫力あるぜ」

「全くだ」

十キロほど進んだ。すると、そこには巨大な草原と小さな池が点在する場所に出た。フーガの話だとここは大昔の地殻変動で地底に溜まった水が長い年月をかけて大地を侵食して地上に出てきて誕生した場所だ。

そして、今や隠れたダイビングスポットだ。

「よし、みんな。潜るぞ」

「オッケー」

「行きましょう。水底の世界へ」 

ゴーグルやボンベを着装し、入水する。そして、広がる目の前の世界に全員が瞳を輝かせた。

“キレイ!!!”

そこには、天上から差し込む陽光と水鏡が光る美しいAQUA WORLD〜水中世界〜が広がっていた。

魚になった気分で底の方まで潜ってみる。いや、正確にはその何にも囚われない世界の魅力に惹き込まれていたのだ。

「人魚姫になった気持ちだわ」

ユリが魚たちを触り、岩に触れる。

「人魚姫と言うより、大河の女神だろ」

ユリの長い黒髪を触るピース、しかし、夫のスキンシップが恥ずかしいのか、「ちょ、子供たちもいるのに辞めてよね」と怒るが、それは、今朝のラッシェオがルルとしたようなやりとりがなされた。彼の好きな人に対してのスキンシップは父親からの遺伝のようだ

息子もルル一家も少し頬を紅くする。

六人はそのまま、水鏡のような世界を進む。













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