三夜 夏草に眠る涙

ラッシェオとルルは川遊びを終えた後、夕飯に使う焚火の枯れ木を森に拾いに行った。

「ルル、あった?」

「こっちにいっぱいあるわ」

「ラッキー、これで今夜はキャンプファイヤーができるな」

「はは、本当だね」

二人で笑いながら歩いていると、ルルが何かに足を取られ、躓いた。

「きゃあ」

“ガッシー”と彼女を受け止めた“大丈夫か?”と彼女に尋ねようとしたが、足場が悪かったのか、ラッシェオも身体のバランスを崩して一緒に倒れてしまった。

「うわっと、いてて…ルル、大丈夫か?」

ラッシェオをクッションにルルは腰を抜かしていたが、怪我はなかった。

「あたた、大丈夫だよ。もう、何なの…?」

二人が辺りを見渡すとどうやら、茂みに石垣が隠れていたものが姿を現した。

しかし、もっと驚いているのは二人だった。

「石の壁…なんだろう…?これ」

「見たこともない建築方法だよ…石を乱雑に積んでいるけど…」

どうやら、ラッシェオとルルの住むモルディには石垣が存在しないようだ。二人は携帯電話のカメラに謎の建造物を撮影し、両親たちに報告した。

「石を大量に積んで造られた壁なんて初めて見た。しかし、立派な造りだな」

フーガは目を丸くして言った。

建築関係の仕事をしている彼は石を使って作るなど今まで見たことも聞いたこともないので大変驚いていた。

他の皆もそれは同じだった。

この世界は人類が誕生し、百年の間に目覚ましい発展を遂げた。それは、「ルーザ」と言う鉱物が世界中で見つかり、科学が凄まじい速さで進歩し、巨大な高層ビル群や彼らの乗ってきたハイテクカーをはじめ、ロボットやAIなどの技術に宇宙船やコロニーや宇宙ステーションの開発なども今や当たり前のものとなった。

産業や教育、国防、医療、福祉、治安

税金、社会保障なども重要な生活基盤は全てコンピューターが管理し、ハイテクを極めた社会だ。しかし、それ故にある悲しい代償があった。それは…

「ルーザで造られたものではないし、こんな技法、誰も知らないのに、もしかして、未知の世界から来た宇宙人か異世界人がいるのか…?」

少し恐怖を感じるが…しかし、楽しい時間や場所にせっかく来たのに、つまらない恐怖が出来たら楽しくなくなる。

「よし、点火するよ」

「行くよ」

ラッシェオとルルが松明を積まれた木に当てた。

“ボォオー”

炎は勢いよく柱を立てて、天に昇った。

夏の夜空を赤く彩るキャンプファイヤーを六人は眺める。周りに肉や野菜、魚を刺したバーベキューやら真っ白なマシュマロをこんがりと焼く。

「ルル、特大のが焼けたぞ」

ラッシェオが差し出す。

「わぁーありがとう」

ルルが喜んで口にする。

すると、両親たちもそれぞれのパートナーたちにお酒やら、焼けたバーベキューを手渡す。小さなカップルの気持ちは周りの大人たちにも結婚する前のカップルだった頃を思い出していた。

デートで行った海沿いの湾岸都市の公園、仕事終わりに行ったレストラン、ホテルのラウンジなど、思い出すだけで懐かしくなる。

「ルル、踊ろうぜ」

「うん」

「ユリ、昔みたく踊るか」

「ええ」

「ティア、踊ってくれないか…?」

「もちろん、よろしくてよ」

六人は炎の周りで歌い、踊った。それは小さな村祭りのようだった。

ここは六人だけの楽園、誰にも疎外されず蔑まれず楽しめる世界。

楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。キャンプファイヤーは消え、六人はシートの上で騒ぎ疲れて、そのまま床に付いた。

(おやすみなさい、ラッシェオ)

(ルル、グッナイ)

両親たちの目を盗んで、唇を交わしていた。

同時刻

“〜ヴィウ、ヴィオオオオォォォ〜”

ラッシェオたちが見つけた石垣の周りを強い夜風が吹いた。だが、それはなんとも言えない悲しい気持ちになる風音だった。

まるで、夏草の陰に眠る何者かが涙している叫び声のようだった。








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