第9話

 あの後、「にゃっ!」っというメリィちゃんの声が聞こえた次の瞬間、通話は切れた。あれー?と思ってスマホを覗き込んだら


『不意打ち禁止だよ!みぃくん!』


 とメッセージが送られていた。うん、とりあえずごめんね?


 そっかぁ……うん、確かに長年の付き合いだけれど、流石に顔もよく知らない相手に突然『君の声が聞きたくなった』って言われてもキモイだけだよな。反省反省。


『ごめん。急に声が聞きたいとか言われても気持ち悪かったよね』既読


『べ、別に気持ち悪いとかじゃなくて!びっくりしただけだから!本当だよ!みぃくん!』


 あらほんと?それなら良かった。俺、メリィちゃんに嫌われたらスティックヒューマン・オンラインなんてやらない。


『良かった。俺、メリィちゃんに嫌われたらこのゲーム辞めるとこだった』既読


『その時は私も一緒にやめるから!別のゲームでもみぃくんと一緒がいいの!』


 ………ふぅ。なにそれ、可愛いかよ。


『とりあえず、その急に可愛いよーとか、綺麗な声ーとか、私をドキドキさせる言葉は言わないで下さい。心臓に悪いです』


『言うなら宣言してから言ってください』


 あ、宣言すれば言っていいんだ。


『……とりあえず、通話していい?声が聞きたいっていいます。声が聞きたいです』既読


『………宣言って口頭で言えばいいからねみぃくん』


 すると、画面が通話画面になり、メリィからの通話だった。


「…それでみぃくん。どうして私の声を」


「いや、メリィちゃんと初めて会った時のことを思い出して」


 その後、俺たちは昔話に花を咲かせる。


「あぁ……確か魚人の洞窟だっけ?二人限定ダンジョンの。懐かしいなぁ……急にみぃくんからメッセ飛んできたからびっくりしたよ」


「俺、あそこまでスムーズに連携行ったの初めてだったからさ、ものすごく興奮してて」


 当時、うおおー!!すげぇー!!みたいな感じで気分がハイになってたな。後先考えずにメッセージ送ってしまった。


「でも後悔はしてないよ。そのおかげでーーー俺の気分がハイになってたおかげで、今の俺とメリィちゃんの関係性がある」


「………うん、そうだね。三年前のみぃくんに感謝しないとね」


 うんうん、俺も感謝しとこ。


「あー……うん、確かに昔思い出したらみぃ君の声聞きたくなってるくね。今聞いてるけど」


「そうだね。俺達がボイチャを始めるようになったきっかけも俺からだったね」


 2年前。第3弾大型アップデート『海に沈む幻大陸』で初めて出てきた超高難度ダンジョン『海洋洞窟パンゲア』の攻略。


 当時のレベルキャップは75。それに対して適正レベルは70超えの棒人間泣かしと言われた鬼畜ダンジョン。


 公式が発表したクエスト攻略の鍵はバランスのいい4人パーティーで65以上に対し、俺とメリィちゃんは無謀にも二人でチャレンジしたのだ。


 壁役のメリィちゃん。攻撃も回復もする俺で何とかボスまではたどり着けたのだが、肝心の連携が追いつけなくて全滅。三回ほど失敗を繰り返した俺は、メリィちゃんにこう言ったのだ。


『ボイチャしない?連携高めるために』


 ボスの攻撃を見て、キーボードで打ち込むのでは間に合わない。直接声で攻撃を伝えられれば、もっと上手くいく。


『うん、いいよ』


 大分長い間が空いたが、届いたのは了承の意だった。


 そして、俺はそこで初めて、メリィちゃんの声を聞き、それからもずっとボイチャをしていき、その人となりに、俺はメリィちゃんに惚れた。


『てすてす……聞こえますか?メリィです』


 一目惚れならぬ、一声惚れ。俺はきっと、あの時から好きだったのだろうな。


「みぃくんの声が思ったよりも低くてびっくりしちゃった。いつだっけ?中三かな?」


「そうだね。俺が中三、メリィちゃんが高一の頃だね」


 受験時に何やってんだとか思うだろうが、文部両道ならぬ、文戯両道。そこら辺はしっかりしているのだ!


 そして、なんとびっくりな事にメリィちゃんは1つ年上だった。


 暫く思い出話に花を咲かせていると、お昼のお知らせを鳴らすチャイム的なアレの音がなった。


「もう昼……それじゃ俺、一旦ご飯食べてくる」


「うん。また2時からね」


「うん、また」


 2時からメリィちゃんと棒人ゲーをやることになっている。1つ年上との事なので、大学受験の方は大丈夫なのか心配だが、特に大丈夫らしい。授業聞いておけば六割は取れるらしいから。俺と同じじゃん。




 そして2時。いつも通りスティックヒューマン・オンラインへログインした俺は、念の為に教会へ行くことにした。


 理由としては一応、スティックヒューマン・オンラインにはログインボーナスが存在している。そのログボが朝の6時以降のログインで受け取れるので、一日って6時からかなー?という淡い期待を持って教会へ向かった。


『おお!冒険者様!新郎の衣装、出来ておりますぞ!』


 はい、ビンゴ。予想当たってて良かったです。


『これで、残りは花嫁の衣装と誓の指輪プレシャスリングの2つだけです』


 良かった。これで今日は花嫁の衣装をラスト一つまで進められるな。


『それでは冒険者様、花嫁の衣装の素材は、先程の糸で足りるのですが……装飾に使う花が、北にあるとある洞窟に咲く花が、未来の花嫁という花言葉なので、それを採ってきて欲しいのです』


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