エピローグ1

「さとりー? さとりってばー」

 後ろから肩を叩かれてさとりは振り向いた。

 そこには大学に入ってすぐにできた友達が立っていた。

「え、あ、ごめん。なに?」

「なにってさー、さっきから呼んでるのに。気づかなかった?」

「ああ、うん。ごめん。気づかなかった」

 と、さとりは力なく言う。

 すると友人は心配そうな顔をして、

「どしたー? 就職活動が億劫で沈んでるの?」

 大学生になって四年目。すでに学生でいられる時間は一年を切っている。周りはさとりも含めて就職活動に励んでいる。

「まあ、就活も上手くいってるとは言い難いけどさ」

「それ私も。全然、内定でないし」

 同じようにげんなりしながら友人が隣に並び、二人は歩き出した。

 自分も含め、未だ内定を貰っていない学生は多々いるが、それでも早い学生は就職活動が始まって直ぐに内定を貰っている。これからも続くであろう、しかも先の見えない地獄の活動にこれ以上参加しなくていいのかと思うととても羨ましく思う。

「でもこれは違うんだ。別に就活のせいじゃない」

「どこか具合でも悪いの?」

「ん・・・・・・まあ、少し」

 言って口元を抑える。

「最近なんか、気持ち悪いこと多くて」

「・・・・・・大丈夫?」

「実は今朝も吐いた」

「マジで? 大丈夫じゃないじゃん。彼氏は? 同棲してるんでしょ?」

 さとりが大学四年になってからすぐ。すでに就職していた夏生と同棲を始めた。まだたった数ヶ月という期間でしかないが、それでもずっと夏生と一緒にいられるのは嬉しかった。

「今朝って言っても今日あたし三限からだったから。朝に夏生を見送ってから二度寝したんだよね。その後起きて少ししたら気持ち悪かった」

「なんか変なものでも食べた?」

「まさか」

 変なものもなにも、家の家事を仕切っているのは他ならぬさとりだ。

 自分の手で夏生と自分のために食事を作っている。どこかに遠出でもしない限り外食することなんてほぼなく、コンビニ弁当すら食べないと言っていい。

 だから食べ物に関しては、自分だけでなく夏生も食べるものでもあるため、いつも食中毒なんかには気を配っている。

 食中毒やそれに類するものによる体調不良であるとは、正直考えにくいのだが。

「ふむ。それ以外に症状は?」

「えーっとね・・・・・・」

 と、それを聞いた友人が考え込む。そして歩きながらしばらく考え、ふと友人は言った。

「ねぇ、さとり、それってもしかしてさ――」

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