5-4
翌日のさとりの停学二日目。
この日、夏生と春は学校を欠席した。なぜかというと、夏生が家族になりたいと口にしたことで、夏生や春以上に茂が喜んだからだ。二人に学校を欠席させ、自身も会社を欠勤し、朝一で役所へと向かったのだ。
目的はもちろん正式に夏生と茂の間に養子縁組を結ぶこと。必要書類はすでに準備してあったらしく、三人で書類を提出した。
それからは三人で昼食を食べ、その後に夏生の家族の下へ。家族の眠る墓へと向かった。そこでそれぞれが夏生の家族へ昨日のことを報告したのだ。
茂は亡き親友へ。
春は夏生の新たな姉として。
夏生は父と母と姉に。自分が前に進んでいくことを墓前で堅く誓った。
そして翌日。
この日は通常通りに二人は登校した。
昨日はまだ熱に浮かされたような気分だったが、一晩経ってその熱も少しは落ち着いた。落ち着いたことで夏生の頭には他のことを考える余裕が生まれる。
返事を聞かせてほしいと言われている。
あの晩、さとりが夏生に告げた自分の気持ちに対する答え。
最初はさとりのことを同類くらいにしか思っていなかった。危うい場所に立っている後輩というくらいの認識だった。
でも短いながらもさとりと過ごした日々はとても色濃く夏生の中に残っている。
さとりがいたから今があるのは間違いない。当然、感謝もしているし、彼女のことを嫌ったり疎ましく思っているなんてことは絶対にない。
じゃあさとりのことを好きなのか。
好きか嫌いかの二択で言えば迷うことなく好きと答えるだろう。でもその好きは友人としてのもので感謝なのか、それともさとりと同じ想いなのか。
さとりと過ごした時間。思い返せば楽しいものだった。
世話を焼いたことも、ゲームしたことも、食事したことも。さとりといたときは寂しいと感じたことはなかったように思う。だからさとりが離れていったとき余計に生活が寂しく悲しくなったのだ。
そして寂しいと、悲しいと感じるのは、それだけ夏生の中で崎森さとりという存在が大きくなっていたからに他ならない。だからこそ夏生はさとりのことを救いたいと思って行動し、さとりも夏生を救いたいと行動した。
互いに支え合い、助け合っていた。
(・・・・・・なんだよ、それ。まるで、家族みたいじゃんか)
夏生は山野辺という新しい家族を得た。そのことについては幸せだと思っている。夏生の家族は春と茂なのだ。
だがさとりはこうも言っていた。
家族は増えていくものだと。
春と茂は確かに夏生の家族だ。だがしかし、春と茂だけが夏生の家族になれるというわけではない。
前に進んでいけば色々なことがある。
誰かと出会い、想いを通じ合わせ、結婚し、子供を作る。そういう未来がきっと訪れる。そしてもしも夏生にもそういう未来があるのなら、その相手は――。
「・・・・・・・・・・・・っ」
頭に浮かんだのは一人の少女。そして熱を持つ頬。
(・・・・・・ち。なんだよ。最初から、決まってんじゃねぇか)
考える必要なんてなかった。
夏生の気持ちはもうとっくに固まっていたのだから。
受業が終わり昼休みになると、昼食に誘ってきた春に断りを入れて一人で屋上に向かった。
さとりの停学が明けるのを待っても良かった。家を知っているのだから放課後まで待っても良かった。
でもそれ以上に気は逸っていた。
彼女の声が聞きたい、彼女の気持ちを伝えたい。そう思っていた。
「・・・・・・」
深呼吸しながらスマホの通話ボタンをタップする。
直ぐにコールが始まる。
「・・・・・・」
――が、
「・・・・・・?」
いくら待ってもさとりは電話に出なかった。
何度も何度もコールする。
しかし結局、その日、さとりが電話に出ることはなかった――。
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