4-7

 崎森さとりは窓の外へと視線を投げながら、昨晩の告白について考えていた。

 相手は高木勇次。中学時代の同級生で、一番仲の良かった男子生徒。

 そして、歪んだ自分が真っ先に襲ってしまった相手。

 当時のことは今でもよく覚えている。勇次を押し倒した直後の彼の顔。周りに引き剥がされて息を整えたときに合った視線。

 それは今まで勇次がさとりに向けたことがないものだった。

 態度と同じでその視線には明確な拒絶の意思が感じられた。そしてその視線を受けたときに思ったのだ。

 ――ああ、嫌われてしまったのだな、と。

 どちらからともなく距離を置いた。卒業するまでまともに話すことはなかったし、だから進学先が同じ学校で同じクラスだったこと、そしてどういうわけか高校入学を機に彼がまた話しかけてくるようになったことに驚いていた。

 さとりからすれば勇次の行動は不可解だった。なにせさとりは勇次にあんなことをしてしまったのだ。避けられてもいた。完全に嫌われたのだと思った。

 だがどうやらその想いは間違っていたらしい。

 勇次が嘘や冗談で告白なんてする人間じゃないことは知っている。昨日の態度からもあれが本気の気持ちだってこともわかる。だからこそ信じられない。あんなことをさとりはしたのに、まさか勇次がさとりに好意を持っていたなんて。

(本当に、あたしのことを好きになる要素なんてないのになぁ)

 何度も考え、何度も思う。

 勇次はさとりのどこを見て好きになったのか。

 本人はあの件の後で気持ちに気づいたと言っていたが、元々あったその気持ちでさえ変わってしまっても不思議ではないはずだ。いや、変わったからこそ、その気持ちに気づいたのだろうか。

(・・・・・・でもま、いいか、別に)

 さとりからすれば気持ちの変化の順番なんて些事だ。

 勇次はさとりのことが好きだと言った。さとりが望んでいるものをくれると言った。家族になってくれると言った。

 なら、些細なことはどうでもいい。

 夏生のときに失敗したのは、夏生にさとりへの気持ちがなかったからだ。夏生の家族を失った悲しみや罪悪感につけ込んだだけだったからだ。

 自分勝手に迫って、トラウマに触れて、苦しませてしまった。

 でも勇次は違う。勇次はさとりへの明確な好意を抱いているし、夏生のようなトラウマもない。失敗するような理由が見当たらない。

(・・・・・・断る理由なんて、ないよね)

 夏生のときとはなにもかもが正反対だ。考えるまでもなく、断る理由はない。

 これで手に入る。ずっと望んでいたものが。

「おー、勇次。どうした今日は遅いな」

 今日、彼の告白を受け入れよう。

 そんなことを考えているとクラスメイトの声がして、考えていた人物が登校してきたのがわかった。

 いつもよりもかなり遅い時間。教室の入り口でなぜか躊躇っている彼に視線を向けると、目が合うか合わないかの一瞬で顔を逸らされてしまう。そして勇次は近寄ってきたクラスメイトを引き連れて教室を出て行った。

 話す機会を逸してしまったが、今日はまだ時間がある。チャンスなんていくらでもあるのだ。

 さとりはまた外へと視線を向ける。春の風に揺れる木々をボンヤリと見つめているとスマホにメッセージが送られてきた。何気なく取り出して画面を見ると、勇次から告白の返事を今日教えてくれという内容のメッセージが送られてきていた。

 願ってもない。まさか向こうから機会を作ってくれるとはラッキーだった。

 すぐに了解した旨をメッセージで送る。

 むしろ、このメッセージの返信で答えを伝えてもいいくらいだった。

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