第3話 何でもしまえる変数 その2

「あれぇ、消しゴムが出てこないわ」


 ソラリスが『c』と書かれた箱を漁っている。

 確か『c』は『文房具型』だったな。


「どうしましたか?」

「確か私、この箱に消しゴムを入れたはずなの」

「ほほう」

「だけど、鉛筆しか出てこないのよ」


 その証拠に、彼女の足元には鉛筆が転がっていた。

 僕も箱の中を覗き込む。

 中は空っぽだった。


「ソラリスさん」

「はい」

「変数には一つの物しか入れられないんですよ。きっと」

「へぇ」


 プログラムの変数がそうだから、

 この世界において、僕のスキルで出したこの変数の箱もそうなのだ。

 例えば、変数aがあったとする。

 そこに1をいれる。

 プログラムではこう書く。


 a=1


 これでaは1を持つ。

 次に、aに2を入れる。


 a=2


 するとaの中身はどうなるか?


「どうなるんですか?」


 ソラリスが問い返す。

 僕は答える。


「aは2です」

「1はどこに?」

「2で上書きされたのです」

「なるほど。それで、この箱も一つの物しか入れられないのですね」


 ソラリスは手を叩いた。

 良かった。

 分かってくれて。


「多分、『c』に消しゴム、鉛筆の順で入れたから、消しゴムが消えたのでしょう」

「あら、残念。手紙を書きなおしたかったのに」


 おっちょこちょいというか、おっとりした聖女だなあ。

 それにしても、無限にモノが入れられる訳じゃないのか。

 ちょっと、がっかりだな。

 それこそ僕は、猫型ロボットが持つ四次元ポケットを想像してたんだけど……。


「いや、ちょっと待てよ」


 プログラムにおいて、変数は沢山定義出来る。

 それと同じように、変数という箱を沢山作って一個ずつ物を入れて行けばいい。

 幸い? 部屋にはまだ物が沢山ある。

 試してみよう。


「文房具型の変数! 鉛筆!」

「文房具型の変数! ノート!」

「文房具型の変数! 筆箱!」

「文房具型の変数! そろばん!」

「文房具型の変数! 修正液!」

 

 5つの箱が並ぶ。


「わあ!」


 ソラリスが口を大きく開けてビックリしている。

 鉛筆と書かれた箱には鉛筆を入れる。

 以下、同じように、と。

 だいぶ、部屋が整理されました。

 次は、洋服を……


「衣類型の変数! シャツ!」


 あれ?

 出ない?


「もしかして、MPが足りないのでは?」


 ソラリスが僕の能力を見てくれた。 


  Lv.3

  スキル :プログラミング(レベル1)

  攻撃力 : 4

  HP : 10

  MP : 0

  素早さ :5

  知力 : 50

  運 : 5


 MPが0だ。

 なるほど、僕のスキルは魔力を消費するのか。

 そう都合よくは行かないんだね。


つづく

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