第2話 何でもしまえる変数 その1

 この異世界において、僕には『プログラミング』というスキルが備わっているらしい。


「見たことも聞いたことも無いスキルだわ!」


 聖女ソラリスが驚いている。

 僕もビックリだよ。

 現実世界での仕事が、異世界でスキルとしてそのまま認定されるだなんて!

 しかし、このスキルでどうやってモンスター達と戦うのだろうか。


「発動させてみて」

「どうやって?」

「魔法ならこうやって手をかざして、集中力を高めると……」


 ソラリスの手から小さな火の玉が飛び出した。


「おおっ!」


 僕は初めて見る魔法に感動した。

 真似して手をかざしてみる。

 何も出ない。


「for、if 、else if、while……」


 プログラムのコマンドを呟いても何も出ない。

 

「ん~……。やっぱパソコンが無いと出来ないよなあ」

「パソコン?」

「ああ、僕のいた世界にあった機械っていうか、アイテムです。プログラムをパソコンに書いて実行すれば思う通り動くんです」

「分かりました」


 彼女は絨毯に描かれた魔法陣に手をかざし、詠唱し始めた。


「いでよ、パソコン!」


 だけど出てくるのは、空き缶とか紙クズばかりだ。

 あっという間に部屋はゴミだらけ。

 足の踏み場も無い。

 それでもソラリスは額に汗して召喚魔法を唱え続けている。


「『プログラミング』が見てみたいのに!」


 その一生懸命な姿は可愛らしい。

 だけど、もう部屋はゴミ屋敷だ。


「ソラリスさん、ソラリスさん」

「はい」

「そろそろ片付けないと、ですね……」

「あら、大変」


 やっとこさ、ことの重大さに気付いたらしい。


「綺麗にしたいけど、しまうところが無いわ」


 僕はおっちょこちょいな聖女だな、と思った。


「箱かなんかに入れて一箇所にしたいですよね。ゴミに出すのも便利だし……箱かっ!」


 僕は閃いた。


「ゴミ型の変数! a!」


 僕の手から、aと書かれた箱が出て来た。

 それは手のひらサイズの小さな箱だ。


「さあ、ここにゴミを入れましょう」


 aという変数名の箱は『ゴミ型』だ。

 ゴミがどんどん入る。


「あれ、これは入らないわ」


 ソラリスは錆びた剣を持っていた。


「あ、それは」


 僕は唱えた。


「武器型の変数! b!」


 bと書かれた箱に、錆びた剣は収まった。


「すごい。これがあなたのスキルなのですね」


 ソラリスが感動している。

 照れるな。

 だけど、まじでプログラミングと同じだ。

 変数は数値や文字を入れる器みたいなもんだ。

 それが、この世界では箱として現れる。

 その箱に型という属性を定義すれば物を分類出来るし、収納出来るんだな。

 武器は武器型。

 ゴミはゴミ型。


 このスキル、すごい。


つづく

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