第46話 麗華月に行く5、飲酒

[まえがき]

良い子のみんなは、成人する前にお酒を飲んじゃダメなんだぞ。でも月の上ならきっとOKだ。

2019年10月18日、『巻き込まれ召喚。 収納士って最強じゃね!?』を初めてwebに投稿始め、本日2020年10月18日丸一年が経ちました。今後ともよろしくお願いします。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 代田の撮ったビデオを見て、特におかしなところもなかったため、父親に安心して見せることができる内容にほっとしていたら、午後6時となったようで、麗華たちの部屋に夕食が届けられた。


 今回代田は、日本食を頼んだようで、二名のホテルのスタッフによってワゴンで運ばれた料理が広めのテーブルの上に並べられて行く。料理屋ではないため一品ずつ運んでくれるわけではない。


「あら、おいしそうな料理ね。アギラカナ料理って聞いたことはないのだけれど、月の上での日本料理も捨てがたいわね」


「お嬢さま、折角ですのでアギラカナ料理があればと思い、一応メニューを確認したのですが、アギラカナ料理なるものはないようです」


「わたしも、そういったものがあるとは聞いたことはないから、アギラカナの人はきっと、チューブに入ったゼリーのようなものを食べているのよ」


 これも実に的確な予想である。


「それなら、アギラカナ料理なるものがないのがうなずけますな。私もチューブをくわえてお酒を飲むのは遠慮したいところです。それでは、まず最初は、軽いところでビールでしょうか?」


「そうね、だいたい宴会なんかでもビールの乾杯からよね。わたしはいつも炭酸水だったけれど」


「国内ではおおっぴらに飲酒はできませんから、こればかりは成人するまで我慢してください」


 話しながら、代田が酒類専用冷蔵庫から数本のビール瓶とグラスをお盆の上に乗せてやって来た。


「最近のお店では中瓶のビールばかりになってきましたが、ここにはちゃんと大瓶がございました」


「量以外に、大瓶と中瓶で何か違うの?」


「おそらく科学的に調べれば中身のビールには何も違いはないのでしょうが、私は大瓶からグラスに注いだものの方が美味おいしい気がしています」


「そういったことってあるわよね」


「それではお嬢さま、お注ぎしましょう」


「あら、悪いわね」


「お嬢さま、最初のうちはグラスをやや傾けていただけると泡がある程度抑えられます」


「そうなの。確かに泡だらけだと飲んだ気はしないものね」


 トク、トク、トク……、といい音がして麗華の持つやや大きめの縦長のグラスに代田が瓶ビールを注ぐ。


 さすがは何でもできる執事。泡の量も申し分ない量で、グラスの上からこぼれそうでこぼれない。


「それじゃあ、代田、私が代田にいであげるわ」


「これはこれは、ありがとうございます」


 先ほどの代田のビールの注ぎ方を観察していた麗華も、代田の持つグラスにちゃんと適量の泡を作ってしまった。もちろん、グラスの外にこぼれるようなことはない。


「それじゃあ、カンパーイ!」


「乾杯。いただきます」


 ゴクゴク。


「初めて口にしたわけではないけれど、やはりわたしには少しにがいわね。でも喉を潤す感じって言うか、なにか爽快感のようなものが感じられるみたい」


「私の場合、もはや苦みなどは感じなくなっていますが、まずはビールを喉に流し込んでそれで、少しいい気分で食事をとるといったところです」


「ふーん。苦みが感じられなくなるとは知らなかったわ。それって、一種のアル中なんじゃない?」


「そうかもしれませんが、特に依存症といった症状はないようです」


「まあいいわ、それじゃあ、お料理をいただきましょう。いただきます」


「いただきます」



 テーブルに出された料理は、ホテルではあるが日本食であったのと一度に運ばれてきたため、まるで温泉旅館の夕食のようなありさまになってしまった。


 無難に刺身の盛り合わせに箸を伸ばし、口に運ぶ麗華。


「あら、このお刺身、ヒラメだと思うけれど、おいしい」


「ここAMRでは、アギラカナが自国用に仕入れている食材をそのまま使っているそうです。熟成させるものもあるようですが、歯ごたえを考えれば魚は生きのいいのに越したことはありませんな」


「そうね。あら、代田気が付かなくてごめんなさい。どうぞ」


 そういって、代田にビールを勧める麗華。


「ありがとうございます。これをいただいたら、私はそろそろ日本酒でいきましょう」


「わたしは、まだビールでいいわ。確かに、最初感じた苦みが薄くなってきたみたい」


「お嬢さまも、こちら側の人間におなりになったわけですな」


「なに言ってんのよ」





 結局、二人で日本酒の冷酒を飲み始めた二人、


「お嬢さまもお強いですなー。旦那さまもお強いですが、お嬢さまは全く酔いが回っていらっしゃらないようです」


「そうでもないわよ。なんだかすごく気持ちがいいもの」


「気持ち良くお酒を飲めるのが一番の幸せですな」


「そうかもね。そういう代田も、全然酔ってないじゃない」


「15度程度のアルコールでは酔いが回らないよう鍛えておりますので大丈夫です」


「鍛えたのね?」


「はい。いついかなる時も全力でお仕えするために鍛えております」


「鍛えている間は、少なくとも酔っぱらったてこと?」


「昔々の話でございます」




「電気代だけで利益が数兆円でしょ? しかもアギラカナの場合実質無税で」


「見なしコストがキロワット5円。卸値をキロワット5円で卸していただいている以上、計算上の利益はゼロですから、税金は取れんでしょう」


「まあね。でもあれって、アギラカナから見て実質コストはゼロなんでしょ。そのあたりについて難癖をつけている連中がいるみたい」


「アギラカナから見て実質ゼロコストであろうが、われわれでは逆立ちしても作れない設備で発電しているわけですから、当然でしょうに」


「おかしな人はどこにでもいるものね。うちのグループにも熱烈な『アンチ』がいるから理解はできるわ。だけど、アギラカナに対してのアンチはマズいでしょうに。実際、アギラカナの好意だけ・・・・で日本は潤っていることが理解できていないのかしら」


「理解できているからこそ、他国などに使嗾しそうされれての行動ではないでしょうか。活動資金なども流れ込んでいると思います」


「それはそうよね。だれもタダで働くわけないものね。代田、この少し塩辛い羊羹みたいなのは何ていうの?」


「それは、カラスミですな」


「日本酒によく合うわね」


「お酒を飲むと言うことでしたので、日本酒の肴として合いそうな物を見繕いました」


「こっちの、干しイカの間にワタの入っているのも合うわね」


「さようでございましょう。たまに、塩の利きすぎたものもあるのですが、これはちょうどよい塩梅のようですな」


 まさに、二人とも蟒蛇うわばみといったところか。まったく表面上酔った感じのしない二人だった。


 ……



「お嬢さま、大変でございます」


「どうしたの?」


「冷蔵庫の中の日本酒がこれ一本になってしまいました」


「仕方がないわよ。小さなビンなんですもの」


「これが最後ということで、そろそろお開きにいたしましょうか?」


「そうね、明日もあるから、それを飲んだらテーブルの上を片付けさせてちょうだい」




[あとがき]

デビュー?一周年記念作品、

悲恋物『幼馴染(おさななじみ)』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921948888 よろしくお願いします。

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