第45話 麗華月に行く4、無想琴音
「少しばかりはしゃいだせいで、喉が渇いたわ」
「少々お持ちください、確か備え付けのバーの冷蔵庫の中に、お嬢さまが日ごろお飲みになっておられます炭酸水があったと思いますのでお持ちいたします」
「ありがと」
代田が冷蔵庫の中から取り出した炭酸水をクラスに注ぎ、トレイに乗せて麗華の元に運んでいく。
「ありがと、代田も
「お言葉、ありがとうございます。それでは、アルコールは夕食時にでもいただきます」
「じゃあ、そうして。そういえば、ここは日本国内だったかしら?」
「いえ、ここは名目上はアギラカナなんでしょうが、月はどこの国の領土ではないと以前聞いたことがありますので、無国籍ということになると思います」
「それじゃあ、法律はどこの国のものが適応されるのかしら?」
「それは、アギラカナでしょう」
「だったら、未成年の私でもお酒を飲んでもいいのかしら?」
「どうでしょう。アギラカナの法律については全く知識にございませんのでご返答しかねます。ただ、お嬢さまがどうしてもお飲みになりたいなら、この部屋の中に置いてあります酒類をこの部屋で飲む分には差し支えないと思います」
「あら、代田は私がアルコールを飲む分には止めないのね」
「少々のアルコールを
「あら、さすがは代田、手回しがずいぶんいいのね」
「それが、執事の務めでございますから」
「そうと決まれば、夕食はこの部屋でとることにしましょう」
「それでしたら、食事は6時にこの部屋に届けるよう手配しておきますがよろしいですか?」
「それでお願い。内容は任せるわ」
「そのように取り計らいます。まだ夕食時には大分時間がありますから、それまでいかがいたしましょうか?」
「そうね、せっかくだから街の中でも見て回りましょうか」
夕食のオーダーを代田がフロントに伝えるのを待って、それから二人してホテルを出、AMRのメインストリートを散策することにした。
「代田、AMRの大きさって、直径2キロじゃない。それでもこんなに広いんだけど、ここに来るときに見たアギラカナの宇宙船は長さが3.6キロあるそうよ。中身はここと違って、ぎっしり詰まっているんでしょうし、どれだけ大きいのか見当もつかないわね」
「申し訳ありません、その時私は目をつむっていたので、あの宇宙船は間近には見ていません」
「それなら仕方ないけれど、
「なるほど、最初、あの宇宙船が現れ、宇宙船国家などという言葉が出てきたことで、あの宇宙船を勝手にわれわれがアギラカナだと思い込んでしまったわけですね」
「そうだと思うの」
「そうであれ、なんであれ、あの宇宙船に対抗できるものは地球上に存在しないわけですし、海の底の潜水艦まで吊り上げてしまうような存在ですからどちらでもよろしいんじゃないでしょうか」
「その通りだけれども、もしかしたらアギラカナは地球ぐらいの大きさのある宇宙船かもしれないって考えると何だかロマンがあるじゃない」
「ロマンはありますがそれはいくら何でもないでしょう」
さすがはお嬢さま、ただの空想だったのかもしれないが、本当のことを言い当てるとは、ただ者ではない。いや、もとよりお嬢さまはただ者ではないので当然なのかもしれない。
「こうやって、歩いてきたけれど、あんまり見るべきものはこの通りにはなかったわね。あそこに露天風呂があるみたいだけれど、今から用意して入るのも大変だから、そろそろ部屋に帰りましょうか」
「はい、お嬢さま。あれ? お嬢さま、大変です」
「いきなり慌ててどうしたの?」
「いま、
「代田、変な冗談はよしてよ。いやよ、琴音さんにこんなところで会うなんて」
「琴音どのに見えましたが、人違いだったかもしれません」
「人違いのままのほうがいいでしょ。確認しなければ人違いのままなんだから。代田、さっさと帰りましょ」
「は、はい。お嬢さま」
急いでホテルの部屋の戻った麗華たち。思った以上に時間も経っていないため、これから何をしようかと悩んでいる。
「それでは、先ほどプールで写したビデオを確認のためここで見てみますか?」
「それもそうね。お父さまにお見せするのにあまり変なものはお見せできないものね。それじゃあ、代田、準備お願い」
夕食が届けられる6時までビデオを見たりして時間を潰す二人だった。
そのころ、無想琴音といえば、彼女もAMRのチケットの抽選に当選したのだが、あいにく一人分のチケットしか入手できなかった。家人が心配する中、執事に羽田の搭乗口まで付き添われ、何とかAMR行きの旅客宇宙船に搭乗することができた。
そこから先は、AMR到着後、運よく手荷物カウンターでスーツケースを回収することもできた。これまでの琴音では考えられない
琴音の宿泊先は麗華たちの宿泊するANLホテルで同じなのだが、宇宙港から外に出ればすぐ目に入るはずのホテルのロゴが目に入らなかったようだ。宇宙港の出口の前にホテルがあるという情報を元に、そのままメインストリートを2キロ近くも歩いたことになる。
普段の琴音ならばそろそろ手荷物は無くしてしまいそうな経過時間なのだが、今回は手荷物を受け取った時、自分の手とスーツケースを手錠でつないでしまっているので荷物を紛失する心配は今のところない。琴音とて失敗に学ぶこともあるのだ。しかし、トイレに入るときにはやや不便かもしれない。
[あとがき]
この45話で、なろうと並びます。
次話以降不定期更新になりますので申し訳ありません。
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