第43話 麗華月に行く2、チェックイン
体調不良の代田に代わって、お嬢さまがAMRへの入場手続きをしようと張り切っていたのだが、地に足の着いたとたん体調が元通りになった代田が麗華に対し、
「お嬢さま、ご心配をおかけして誠に申し訳ございませんでした。もう大丈夫です。AMRでは、入場手続きは有りませんのでそのまま手荷物カウンターに回って荷物を受け取れば、宇宙港から外に出て大丈夫です。私が荷物を持って参りますのでお嬢さまは、このあたりでしばらくお待ちください」
「代田、私も一緒に行くわ。その方が無駄がないでしょう」
「ありがとうございます」
二人で手荷物カウンターに回り、荷物を受け取った後は予約していたANLホテルにチェックインするだけだ。
天井から下がっている案内を見ると、宇宙港の正面出入口からすぐの場所にANLホテルがあるようだ。
開業当初は成田からの便しかなかったAMRだったが、今では日本国内の国際空港から多くの便が出ており、道行く人の数も多い。昼からの便で日本に帰る観光客もスーツケースを引きながら空港に向かっている。いまでも、ANLホテルでは帰りの便への荷物の配送は個別に行っているのだが、もう数カ月するとスーツケースなどは、空港と各ホテル間で直接結ばれて、旅行客は大荷物を持ち歩く必要がなくなるらしい。現在は荷物用のシャフトを空港と各ホテルに結ぶ工事が地下で行われているそうだ。
宇宙港の正面は幅の広い道がまっすぐ向こうまで伸びていた。ここがAMRのメインストリートのようで、道の左右を見るとすぐそこにANLホテルがある。チェックインは13時からだからまだ時間が有る。急ぐ必要はないが荷物を預けてしまいたいので早めにチェックインしようとホテルに向かうことにする。上を見るとAMRは昼間なのだが、透明ドームから星空が見え、頭上には青い地球も見える。
「お嬢様、どうも不思議な景色ですね」
「月に来てるって感じがするわね」
「お嬢さま、そこに
「代田、荷物を持って買い物は面倒でしょ」
「いえ、お嬢さまの梅干しクッキーが売られているのか興味がありませんか?」
「そういえばそうだったわね。ちょっとだけ見てみましょ」
「お嬢さま、大変です。お嬢さまのクッキーがあんなに沢山。山のように置かれています」
「かなり、売れ行きいいって聞いていたけど、全然売れてないのかしら? それにしても沢山置いてあるわね」
「あれ? ほとんどのお客さんがクッキーをかごに入れているようですよ」
「あら、ほんとだわ。みんなに食べてもらえると思うと何だか嬉しいものね」
「さすがは、お嬢さまのクッキーです」
「代田、クッキーに『さすが』はさすがにないでしょ」
「さようでした。帰る前には忘れずに買いましょう。屋敷の者たちも喜ぶと思います」
「あら、梅干しクッキーならいつもうちで食べてるじゃない」
「いえいえ、お嬢さまの考えられたものが
「そういうものなの?」
「はい。そういうものなのです」
「代田、もうお昼を過ぎてるけど、食事はどうする?」
「ホテルの中のレストランにしましょうか? 荷物をフロントに預けてから食事にしましょう」
「そうね、そうしましょう」
ホテルに入りチェックインの手続きを済ませフロントで荷物を預かってもらったところ、部屋に運んでおいてくれるそうだ。
「お嬢さま、ホテルの中に何軒かレストランがあるようです。最上階のレストランは眺めがよろしいでしょうからそこでいかがでしょうか?」
「どこでもいいわ。予約してないけど大丈夫かしら」
「問題ないと思います。スイートの顧客はたいてい優遇されますから」
「そうよね」
「荷物は預けたし、エレベーターはあっちみたいよ」
数人のホテル客と一緒にエレベーターに乗ってレストランのある最上階を目指す。エレベーターを降りた最上階は、天井がなかった。テーブルの上の灯りが煌めいて星空の下での食事ということになる。
あまり
今回麗華の旅行には代田しか同行していないので小さめのスイートを取ったため部屋数は少ないがそれでも十分広い。
「代田、水着と着替えを持って、早速、月の重力を確認しにプール行くわよ」
「はい、お嬢さま。タオルなどは、プールに置いてあるものを使えばよろしいようですので、本当に水着と着替えだけでよろしいようです。私の方はいたって簡単でございますのですぐに準備が整います。カメラなどはいかが致しましょうか?」
「そうね、せっかくの月なのだから記念に何か写すのもいいかも知れないから持って行きましょう」
「かしこまりました」
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