第36話 麗華、覚醒3
代田のおかげで、警察の聴取からすぐに解放されたお嬢さま。対テロ特殊チームのリーダーだって出世したい公務員なのだ、法蔵院グループの次期総帥の覚えが目出度いことに越したことはない。
麗華たちは校門前に呼び寄せたリムジンに乗り込み屋敷を目指す。外からリムジンの中は良くは見えないのだが、並んだ警察車両や軽く近くの警察官たちに
「お嬢さま、腕に
「いいのよ、わたしが無理に代田に付いて行ったのだから。それにすぐに血も止まったみたいだし、全然痛くもないし」
「車の中の救急箱で簡単に消毒して包帯を巻いておきましょう。少ししみますが
消毒薬を右腕に吹きかけられたが別にしみもしなければ痛くもなんともない。固まった血をガーゼでふき取るとすでに傷口がふさふがっていたばかりかピンク色の皮膚でおおわれている。
「お嬢さま、不思議なことに銃撃で裂けた傷口が既に直っていますが?」
「あら、ほんと。どおりで全然痛くないはずだわ。不思議ねー」
お互いに顔を見合わす二人。不思議ではあるがいいことには違いない。
「そういえば、さっき男からピストルで撃たれた前後で急に世界が遅く感じられたの。それでとっさに銃弾を避けることができたのだけれど、その後すぐに世界が普通に戻ったわ」
「私はそう言った経験がありませんので、何とも言えませんが。もしかしたら、お嬢様はラノベで言うとことの進化したのかもしれませんね」
「バカなこと言わないでよ」
「いえ、現に傷口がこんなに早く治っていますし、普通の人間ではこんなに早く傷口が治ることは有りえませんよ」
「代田はわたしが人間辞めてるって言いたいの?」
「
「ふうん。そうなの。でも、代田の言うようにレベルアップだか進化だかだったら面白いわね。明日の朝の鍛錬で確認しましょ」
少し時間がさかのぼり、麗華たちがリムジンで高校に到着したころ。場所は、アギラカナ駐日大使館8階、アギラカナ代表山田圭一の執務室。
「艦長、先ほど、日本解放戦線と名乗るテログループが、都内の高校を襲撃し、高校生40名と教師1名を人質にとって体育館に立てこもったようです」
アインからの報告に驚く山田圭一。
「日本解放戦線? 聞いたことはないが、その連中は日本をどこから解放したいのかな」
「どうも、彼らはわれわれアギラカナから日本を解放したいと言っているようです」
「そりゃあまた、あからさまに、どっかの国のスパイですって言ってるようなもんだな。高校生たちに被害が出るのは可哀そうだし、上から陸戦隊でも投入してチャッチャと片付けてしまうか?」
「それですと、日本の警察権への侵害になりますのでお勧めできません」
「そうだったな」
「それと、テログループが立てこもった都内の高校ですが、先日一条さんとここに来られた法蔵院さんの通っている学校でした。これは法蔵院さんにそのとき付けた監視ドローンからの映像です」
山田の執務机の上に置かれたモニターに学校の体育館の裏側らしきものが映し出された。
その体育館の屋根の上には執事服を着た一人の男性が立っており、体育館の手前の校舎の脇には背丈より幾分長い金属棒を持った女子高生が、腰を沈めて体を隠し体育館方向の様子をうかがっている。
体育館の扉の前には小銃を肩から下げた男が一人立って周囲を見張っているようだ。見ていると、屋根の上にいた男性がそこから飛び降り、あっという間に銃を持った男を倒してしまった。その後、棒を持った女子高生が合流し、二人そろって体育館に進入していった。
「手前にいた女子高生が法蔵院さんで、屋根にいた男性が、法蔵院さんの秘書の代田さんです。見事なものですね」
「いやいや、女子高生が危険すぎるだろ。
「残念ながら、監視ドローンには監視機能しかありませんので今すぐどうこうすることはできません。どうしてもというなら、上空の強襲揚陸艦ブレイザーの艦砲で犯人を狙撃可能ですが、ブレーザーの最弱の武器を使ったとしても、おそらく犯人は消滅してしまいますし、周辺にも甚大な被害が出ます」
「それは、いくら何でもダメだろ。それに、そこまでしたら日本の警察権の侵害どころか犯罪だろ。
お嬢さんたち無茶はしないでくれよ」
いったん体育館に入った二人が映像から消えたが、すぐに映像が透過モードとなったようで、資材置き場のような部屋の中から、体育館内部をうかがっている二人の姿が映し出された。
言ってる端から、代田が生徒たちが人質になっている体育館の中二階の通路に登っていってしまった。代田が通路を伝わり奥の方に移動していくのに合わせ、姿勢を低くした法蔵院麗華が、手にした金属製の棒を両手で構え、音を立てずに椅子に座った男に近づいていく。
二人目の男がようやく法蔵院麗華に気付いた時、一番向こうの小銃を持った男が代田によって後方から締め落とされていた。ドサッと音を立てて倒れたため、二人目の男がそちらを振り返った時には、麗華の方は3番目の男が代田によって倒されたのを見て慌てて椅子から立ち上がろうとしていた男の後頭部に棒の先端を突き当て、
パーン!
「あれ、今のは明らかに、発砲されてから弾を避けたよな」
「そうでしたね。法蔵院さんは感覚だけは発砲に対応していたようですが、体の方がまだ十分発達していないようで、完全には弾を避けきれなかったようです。彼女には特殊生体器官が発現していませんでしたが、想像以上に運動神経、肉体強化が進んでいるようです」
「弾が
「あの程度ですと、10分もあれば完治します」
「そうなのか、あのお嬢さんがそうだとすると、俺だともっと早く治るのか?」
「艦長ですと、おそらく1分以内に完治すると思いますが、艦長に避けるつもりがあればそもそもあの低速の弾丸が当たるとは思えません」
「お嬢さんの怪我が大したことなくて良かった。しかし、このテログループの要求内容は明らかにわれわれアギラカナへの挑発行為だと思うがどうしたもんかな?」
「背後関係が明らかになれば、はっきり分かる形で何らかの懲罰行動をとる必要があります。おそらくC国辺りが背後でテログループを操っていたのでしょうから、まず、先日のC国首都の制圧演習の映像を世界的に流してみましょう。背後関係が明らかになりC国が無関係であっても特に問題はないでしょうし」
「また同じような犯行があってもつまらんから少し脅しておくか。
何でも一条がYooTubeでアギラカナ公式チャンネルを作りたいって言ってたから、やらせてやろう。前回の陸戦隊のC国首都制圧演習の映像を流してやろう。最初のコンテンツにしてはインパクトがありすぎのような気もするけどな。AA-0002の存在は、いまのところ秘密にしておくとすると、降下ポッドの射出のあたりはうまく編集する必要があるな。アイン、頼めるか?」
「了解しました。一条さんと相談して早急に対応します」
「来週、再来週に予定している降下訓練もYooTubeにアップしてやれば相当なインパクトがありそうだな」
「A国ですが、日本国の支払っている思いやり予算の2割ほど減額を申し入れてきたそうです」
「2割というとどれくらいの金額だい?」
「多くとも500億は超えないと思います」
「国の規模からしたらその金額では多くはないのかもしれないが、気持ちは大切だからな。さすがは、A国は要領がいいな。それだったら、今の政権にマイナスになるだろうからA国首都を想定している第3大隊の演習の動画のアップは止めておこう」
「了解しました」
動画のご利益があったようで、演習の動画をYooTubeに上げた翌日から、アギラカナ大使館前の何だかわからない市民連中のデモも収まったようだ。わかりやすい連中で何よりである。
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