第34話 麗華、覚醒
「お嬢さま、校門が閉まったままですし、いつものガードマンたちも近くにいないようです。少し危険なにおいがします。お嬢さまはこのまま屋敷にお戻りください。わたしが確認してまいります」
「わたしも行くわ。何かあったのか知りたいもの。一緒に中に入って様子を見てみましょう。校門の
麗華にはおとなしくしてもらいたかったのだが、言い出したことをそう簡単に覆すことはないお嬢さまをここで説得することで時間をかけるのは得策ではないと判断した代田は麗華に
「それでは、お嬢さまの
代田が後ろのトランクから長さ60センチほどの3本の軽金属製の棒を取り出した。2本の棒の片側がオスねじになっていて、残った1本の棒の両端がメスねじになっている。メスねじにオスねじをねじ込むことで短い3本の棒が1本のしっかりした金属棒になる。簡易的ではあるが槍の代わりの得物として麗華が使えるよう念のためリムジンのトランクに入れているものだ。出来上がった金属棒を麗華に渡し、
「それでは、お嬢さま、危険かもしれませんので、私から離れないようについて来て下さい」
軽くジャンプして門扉の上を乗り越えて校庭に進入した代田。もうすぐ60の還暦を迎える男だとはとても思えない。麗華もすぐに代田の後を追い、
パーン!
乗り越えた門からいくらも進まぬうちに、校舎の先、体育館の方から拳銃の発射音らしい音が響いてきた。それと同時に、女子生徒達と思われる複数の悲鳴も遠くから聞こえて来た。
パーン!
さらにもう一度、拳銃の発射音が響くと聞こえていた悲鳴もやんだ。
「代田、急ぐわよ」
「はい、お嬢さま」
気付けば、お嬢さまが先頭に立って駆けだして体育館に向かって走り出してしまった。
白鳥学園から、日本解放戦線を名乗る犯人グループにより生徒40人と教師1名が体育館で人質になっているとの通報が警視庁に入り、直ちに警視庁の対テロ特殊チームが白鳥学園に派遣されることなった。
今は、その対テロ特殊チームがサイレンは鳴らさず白鳥学園に向かっているところである。
犯人グループが人質にしたのは、ちょうど体育の実技で体育館を使用していた1年B組の生徒たち40名だった。花太郎のクラスである。当然人質中には花太郎も当然含まれる。
白鳥学園からの通報とは別に犯人グループからの犯行声明が警視庁に送られてきており、その中でアギラカナの日本からの即時撤退を要求していた。アギラカナの撤退など日本人であるならば誰一人として望んでいないのだ。日本解放とは名ばかりで裏には当然のごとくC国、N国の影が見え隠れしている。
麗華たちが向かった白鳥高校の体育館には校舎から直接つながる出入り口と校庭に面した正面出入口、それと用具室に繋がる裏庭からの裏口の3か所がある。
その裏庭方向から体育館に接近した麗華たちだが、校舎の脇から体育館を覗いてみると、手に小銃のようなものを持ち、目出し帽をかぶって迷彩服を着た男が1人体育館の裏口前に立っていた。
「体育館の中を確認したいわね。けが人がいるようならすぐに助けたいし」
「お嬢さま、小銃を手にしているということは、ただの立てこもり犯ではなくテロリストの類のようですね。少しここでお待ちください。あの男を仕留めてまいります」
「代田、気を付けて」
どのようにして登ったのかはわからないが、しばらくして体育館の屋根の上から手を振っている代田が見えた。すぐに代田は、屋根の上から見張りの男の後ろに音もなく飛び降りて、一瞬で男を締め落としてしまった。
気絶してぐったりした男をコンクリートの床の上に寝かせ、なにやら男の両肩に手を添えて力を掛けたようである。男の小銃はすでに代田が銃身をへし折ってしまっていた。そうそう人力でへし折れるような代物ではないのだが、粗悪品だったのか代田がすごいのか。
代田の元に走りよった麗華が小声で代田に確認する。
「殺しちゃった?」
「いえ、気絶させただけです。念のため両肩は外しておきました。気が付いてもしばらくは痛さで何もできないでしょう」
「それは、確かに痛そうね。そこの扉を開けると体育館の用具室よ」
「用具室の中から体育館の中がどうなっているのか確認してみましょう。どのみちお嬢さまはお止めしてもいらっしゃるんですよね。でしたらここからはわたしの指示通りにすると約束して下さい」
「もちろんよ。約束するわ。そのまえに、ちょっと待っててね」
そう言って麗華は履いていた靴を脱ぎ、黒のタイツも脱ぎ捨てた。
「すっきりしたわ。これなら滑らないでしょう」
「それでは、参ります」
代田の方は、革靴で問題ないらしい。
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