第29話 カレーでしょ
そろそろ、花太郎に料理を作ってあげないと嘘を
「わたしでも簡単に作れる料理に挑戦しようと思うの。何かそれらしくて
今日は妙に謙虚なお嬢さまである。
「それでしたら、カレーなどいかがでしょう。
「カレーじゃインパクトもないし、誰が作っても同じようになっちゃうじゃない」
「お嬢さま、料理も見た目はだいじかもしれませんが、インパクトではありません。心です。心さえこもっていればどんな料理でもごちそうなのです」
さすがは長年麗華付をしているできる男、代田。心などというあいまいで、しかも見えもしないもので麗華をうまく誘導していく。
「そうかもしれないわね。だけど、小学生並みって言われているみたいで気にくわないわ」
「小学生は、市販のカレールーでカレーを作るようですが、お嬢さまがスパイスからじっくりカレーを作れば小学生なみなどという者はおりませんよ」
「わたしの場合、市販のカレールーでカレーも作ったことないからどうかな。でも、スパイスから作るカレーとなると本格的ね。初挑戦になるけど頑張ってみるわ」
心の中では、お嬢さまになるべく料理に挑戦してもらいたくなかった代田だったが、麗華と話しているうちについヨイショしてしまった。かなしい執事の
しまったー! と思うも、もはや後の祭り。しかもスパイスなどという危険な単語まで使ってしまった。毒を食らわば皿まで。ここで代田は腹をくくる。
「ちょうどいいではありませんか、初挑戦。いい言葉です」
「そうね、代田、あなたいつもいいこと言うわね。フフフ、
何だか妙なスイッチが入ってしまったようだ。
「お嬢さま、別に
「わかったわ。それじゃあ早速、宮本を厨房から追い出してカレーを作るわよ」
「どうして料理長を追い出す必要があるのですか?」
「それは、わたしの秘伝のレシピを宮本に秘密にするためよ」
「それはなにゆえ?」
「気持ちよ、気持ち。何だか秘密があった方がおいしくなりそうでしょ」
「そうなんですか?」
「そうなの」
「でも、料理は科学なんですよね?」
「まだ細かいことを憶えてるのね。そんなのだと
そんなこんなで、厨房にやって来た麗華と代田。料理長の宮本と見習いの佐々木には無理にでも休憩していろと厨房から追い出し、さっそく料理を始めることにする。もちろん二人とも前回同様、白い割烹着に白い三角頭巾姿だ。あいかわらず出来る執事の代田の割烹着姿が痛々しい。
前回のクッキーの成功で自信を付けたらしいお嬢さまがもうすぐ還暦を迎える代田に指図する。
「材料を厨房の中から探すわよ。まずは、じゃがいも。その右の冷蔵庫の下のあたりが野菜置き場のはずだから」
「ありました。じゃがいもが何種類かありますが、どれを使いますか?」
「どんなのがあるの?」
「なんだか黒っぽくて丸いのと、平べったいの、それと普通に丸いのがあります」
「じゃがいもなんてどれも同じようなもんだから最後に言ってた普通に丸いのでいいわ。あとは玉ねぎかしら」
「玉ねぎ有りました。にんじんはどうします?」
「にんじんはいいわ。わたしあんまり好きじゃないから。野菜はそれだけでいいから次は牛肉ね。その冷蔵庫の上の方に入ってない?」
「見当たらないようですので隣の冷蔵庫を見てみます。……有りました。美味しそうな霜降りです」
美味しそうな霜降り肉を見てつい口に出してしまった。この高級肉がお嬢さまの手にかかってしまうのだ。これは代田にしては失策である。
「じゃあ、それを持ってきて」
調理台の上にじゃがいも、玉ねぎ、霜降りの牛肉が
「代田は、じゃがいもと玉ねぎの皮をむいててちょうだい。そうねえ、じゃがいもはちょっと小さいようだから10個くらい、玉ねぎは大きいから4個くらいでいいわ。わたしはスパイスを探してみるわ。
スパイス、スパイス。確かこの辺にあったはず。……あったわ。えーと、どうせカレーなんだから何を入れても問題ないわよね。ターメリック? このカレーっぽい黄色のは入れた方がよさそう。クミン? クミンシード? クミンシードってひまわりの種みたい。リスじゃないんだからこれはパスね。粉の方を使いましょ。コリアンダーってパクチーのことよね。パクチーの匂いは独特だけど体に良さそうだからこれは入れてみましょうか。あとは、普通にコショウと赤トウガラシかな」
「お嬢様、皮をむき終わりました」
「あら、代田、皮をむくのが速いのね。だったら玉ねぎをみじん切りにしておいてちょうだい。気を付けてよ。ここのまな板はすごく柔らかいんだから。他のは、適当に一口大に切っておいてちょうだい」
「了解しました」
[あとがき]
ジャガイモはきたあかり。ポテトサラダに持ってこいのジャガイモです。
玉ねぎは新玉ねぎ
牛肉はもちろん松坂牛の霜降りです。
みなさん、お嬢さまの真似はしないように。
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