第18話 駐日アギラカナ大使館1


 ソーラー・クルーズの役員会が終わり、今は麗華と一条が社長室でくつろいでいる。


 一条は自分の副社長室は不要と言っているため、ソーラー・クルーズの社内に一条の部屋はない。自分の部屋がない代わりに、ソーラー・クルーズに用事があれば、麗華の社長室を使わせてもらっているので、役員会の前後には二人が社長室にいることが多い。もちろん代田は入り口横で控えている。


「一条さん、この前わたしが自分で焼いたクッキーなんですけど大使館の皆さんでどうぞ」


 そういって一条に大きな紙製の手提げに入った包みを手渡す麗華。


「宝蔵院さんはお菓子作りができるんだ。できる人って何でもできるのね」


「そんなことありません。たまたま今回作ったクッキーが上出来だったものですから一条さんたちアギラカナ大使館の方たちにも食べてもらいたくて」


「へー、そうなの。それじゃあありがたくいただいちゃうね。ありがとう麗華ちゃん」


「あら、麗華って呼んでくれるんですね。うれしい」


 なんとなく会話が百合百合しくなってしまったのでちょっと戸惑う一条。


「それじゃあ、お礼しなくちゃいけないわね。麗華ちゃん何か欲しいものある? 大富豪の法蔵院のお嬢さまにはそんなものないかな」


「それでしたら、アギラカナ大使館の中を一度拝見させていただけませんか?」


「そんなのでいいの? 大使館の上の方はアギラカナの人たちの専用階だから私以外は入れないけど、それ以外だったら問題ないわよ。何もないところだけど、今からでも一緒に行く? えーと代田さん? ご一緒にどうぞ」


「ありがとうございます」


「それじゃあ、私が乗って来た大使館の車で行きましょう。麗華ちゃんの車は後ろについてこさせて。着いたら大使館の駐車場に車を入れとけばいいわ」



 麗華たち三人は、ソーラークルーズの入ったビジネスビルを後にアギラカナ大使館のセダンで大使館に向かっている。


「一条さんはどちらにお住いですか?」


「私はアギラカナ大使館の9階に部屋があってそこに住んでるの。食事も大使館の中だと好きなものが好きな時に食べられてしかも無料なのよ。一番上の10階にはプールやサウナにトレーニングジムなんかもあってそこらのフィットネスなんか目じゃないわよ。展望浴場もあってそこから見える富士山は格別よ」


「すごいんですね。アギラカナの人たちってどんな人たちなんですか?」


「そうね、一言で言うと、嫌みなほど美男美女? みんな親切でいい人ばかりだけどね。それと、何でかわからないけどみんな日本人顔してるわ。宇宙から来た人たちなのに不思議よね」


「わたしの見たことあるのは、あのすごい美人の四人だけですけど、他のアギラカナの人たちもそうなんですね」


「あの四人はまた特別よ。先輩の直属の部下だもの。先輩って言うのは山田代表のことなの、外では山田代表って呼ぶように言われているけど、この車の中なら平気。

 この道は、大使館の横にある物流センターで貨物宇宙船に積み込む荷物を運ぶトラックが多くて結構混むのよね。それに、最近は市民団体とかのデモがあってほんと困るのよね。市民団体ってことは国民の団体じゃないってことなのよ。最近分かったわ。持ってるプラカードや横断幕に日本人の私じゃ読めないような文字が書いてあるもの。すぐに警察が来てくれてデモが解散されてるからきっと無届けデモなのよ。大使館の近くってデモ禁止のはずなのに。こんど、日本政府にきっちりしてもらうよう言っておくわ」


 少々声を荒らげる一条。日本政府に簡単に物申せるところがすごいところなのだが、事情を知らない人が聞けばただの妄想に聞こえてしまう。


 車の中から見上げるアギラカナ大使館の建物は、黒みがかった偏光ガラスに見える外壁が陽の光を反射していた。10階建てのはずだが思った以上に高さがあり、敷地も広い。


 眺めているうちに三人を乗せた大使館の車がアギラカナ大使館の車寄せに到着した。


「運転手さん、後ろの車は法蔵院さんの車だから一緒に駐車場に連れて行って面倒見てあげてね」


 車から降り立つと、目の前が大使館の玄関なのだが扉は開け放たれている。中に入る瞬間、生体情報が読み取られる仕組みで、ステルスモードの監視ドローンが個別にその人物を監視するのだが、もちろん一条はその情報を知らされていない。代田だけは周りをきょろきょろ見回しているところを見るとドローンの気配を感じたのかもしれない。


 玄関のすぐ脇はエレベーターホールになっており、その先に見える1階フロアは天井が高いだけのがらんとした空室だった。


「1階から、6階まで今のところがらんどうなの。1、2階はテナント用にと思って作ったらしいけどこんなところにお店を開きたいようなもの好きはいないと思ってそのままにしてるのよ。7階がわたしのオフィスになっているからエレベーターでそこに行ってみましょう」


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