第12話 麗華、料理に挑戦1


 前日、花太郎に「好きだから」と告白?した麗華だったが、当然愛だの恋だのと言った感情ではなく、単にすしのネタはが好きといった程度の「好き」だったのだが、ラノベのノリで、今度は自分で料理を作るとつい言ってしまった。


 そうは言ったものの料理だけは苦手のお嬢さま。


 有言実行を信条としている麗華は取り敢えず練習あるのみと、さっそく屋敷の料理長の宮本を厨房から追い出し、そこらへんに置いてあった食材をに使ってに料理を作ってみた。


 自分から見てもできは良くない。しかし、味覚や好みは千差万別。しれない。言いようではあるが、できはともあれ、これも一種の創作料理には違いない。



 ということで、麗華が約束通り執事の代田にでき上がった創作料理をさっそくふるまっている。代田は厨房の方からお嬢さまの掛け声が聞こえるので何事かと思っていたところどうやら料理を作っていたらしい。


 なぜに料理を作るのに「エイッ!」とか「ヤー!」とか「トー!」とかの掛け声が必要だったのかはいまは聞かない方がよさそうだ。『一穿いっせん!』とか言いながら床に足を叩きつける音がしなかっただけでも良しとしよう。


「代田、どう? 少し失敗したかもしれないけれど、どうおいしい?」


 無敵のお嬢さまでも自信がないらしい。


「……」


「代田、どうなの?」


「どういったレシピを元にこの料理ものをお作りになったのですか?」


「レシピはここ」


 そう言って右手の人差し指で自分の頭をコンコン叩くお嬢さま。


「それでは言い方をかえましょう。お嬢さまは何をお作りになったのでしょう?」


「え、見てわからない?」


「わたくしには、かんなくずの入ったお好み焼きのようなもの? いえ、もんじゃ焼き? そのように見えます」


「かんなくずは入ってないわよ。それはまな板の破片よ。うちの厨房で使ってるまな板、根性がないんじゃない。わたしが食材を包丁でと一緒に切れちゃうのよ。もう少し頑丈なまな板にするよう料理長の宮本に言っとかないといけないわ」


「それで結局、この料理のように見えなくもないものはいったい何なのでしょう?」


「わたしもその料理に名前を付けてるわけじゃないから名前はないわ。そうねー、強いて言えば、法蔵院流ごった焼き? わたしのオリジナル料理なんだから名前なんてどうでも良いでしょ。それより食べて感想を聞かせて」


「これを、私に食べろと? ……、率直に感想を申してよろしいですか?」


「な、何よ」


「率直に申してよろしいですね?」


「いいわ、覚悟したから言ってみて」


「お嬢さま、食材を粗末そまつにするのはやめましょう」


「代田、科学の偉大な進歩は失敗の積み重ねの上に成り立っているの。失敗を恐れてはだめ」


「……」


 麗華の最初の試みは、しなかったようだ。


 代田は思う。麗華お嬢さまの言うように、確かに料理は科学なのかもしれないし、失敗を恐れてはいけないのかもしれないが、少しくらいは失敗を恐れた方が良いのではないだろうか。



 それから1時間後、レベルアップした麗華が、執事の代田に料理をふるまっている。今回の料理は自信作ののようだ。


「どう? ちゃんとお出汁だしもとって作ってみたのだけれど」


「お嬢さま、ここは素直に化学調味料を使いませんか? 出汁に使った大量の鰹節や昆布、それにこの小魚は煮干しですか? それが料理の中に混然一体となっていては見た目も味もよろしくありません。それに、これでは鰹節と昆布と煮干しがメインの料理にしか見えません」


 もしかしたらは、所詮なのだ。



 さらに1時間後。


「今度は大丈夫。わたし食べてみたけど十分おいしいわ」


 代田はできる次席執事なのだ。今まで自分で味見もしていなかったのかと決してお嬢さまにたずねはしない。


「こんな短時間によくこれほどのものが作れましたね。さすがはお嬢さま。ほう、見た目もよろしいですし。どれどれ、……、おう、これはなかなか、味の方も素晴らしい。お嬢さま、上できじゃないですか」


「でしょう、料亭から取り寄せたお弁当をお皿に盛って少しお塩をかけてみたの。あまり手を加えない方がよさそうな気がしたのよね。でも、いろどりにと思って缶詰のサクランボを盛り付けてみたわ」


 なるほど、色々な料理の盛られた大皿の真ん中に意味不明の真っ赤なサクランボが山盛りになっている。


「少ししょっぱいと思いましたが、さようでしたか。お嬢さま、お疲れでしょうからそろそろ休憩なさいませんか?」


「少し気を張って疲れたみたいだから、そうするわ。お茶をお願いね」


「かしこまりました。厨房の方は、片付けさせておきますから大丈夫です」


「そう、お願い」


 代田にとって麗華の料理道は槍術の鍛錬の相手など児戯じぎに等しいと思えるほどつらく険しいものなのであった。




 こちらは、麗華の屋敷の料理長の宮本。長年法蔵院家の本宅で副料理長を務めていたのだが、麗華が屋敷を新たに構えるにあたってこちらに移ったのである。


 彼も代田同様、麗華が法蔵院家の当主になったあかつきには、法蔵院家の総料理長に昇格する予定である。その宮本が厨房の前を通りがかった代田を呼び止め頭を下げる。


「お嬢さまが料理に挑まれると聞いてどうなることかと思いましたが代田さんのおかげでこの程度で済んで助かりました。厨房の外から心配で覗いていますと、お嬢さまがうちで一番大きな包丁を両手で持って、食材をまな板もろとも一刀のもとに斬り捨ててしまった時には驚きました。

 これから足りなくなった明日の食材を見習いの佐々木と一緒に買い足しにいきますからよろしくお願いします。新しいまな板を三枚ほど注文していますので私がいない間に届きましたら受け取っておいて下さい。それと、これは胃腸薬です。どうぞ」


「まな板の受け取りは任せてください。胃腸薬、助かります」


 将来法蔵院家の総料理長になる男は気配りのできる男でもあった。




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