第6話 プレゼンテーション
「法蔵院グループ 大神造船株式会社 取締役社長 法蔵院麗華」と書かれた名刺をいったん立ち上がって受け取り本人と見比べる一条特別補佐官。
「えーと、女子高校生社長の法蔵院さん? どうぞお
「私は結構でございますのでお気になさらず」
さすがの一条も女子高生を
「それで、法蔵院さんはわたしにどんなご用件なのでしょう?」
一条は今まで食べていたシャーベットの皿を脇によけ麗華の話を聞くことにする。
「はい、お忙しいところ申し訳ありません」
シャーベットを食べていただけの一条は今は別に忙しくもなんともない。
「いえ、少しも忙しくはありませんから大丈夫ですよ」
とありのまま答えてしまった。
それを聞き、麗華は体を前に乗り出してプレゼンを始める。
「今日本はアギラカナ一色と言っても過言ではありません。アギラカナからわが国への安価かつ安定した資源の供給や、半年前から原発跡地で稼働を始めた核融合発電所からの安価な電力よる恩恵が産業界にも浸透して法蔵院グループもその恩恵にあずかっています。
産業界のみならず、民間でもアギラカナ主導により2カ月前に始まったアギラカナ・ムーン・リゾート(AMR)への月旅行がいまやブームです。現在の定期便が運航されている成田空港だけでなくその他の国際空港でも予約が始まっています。そのうち国内のローカル空港まで月への定期便が就航するのではとの噂もあるくらいです。これから先ますます月旅行が盛んになることは間違いありません」
すでに、成田以外の国際空港からの月への定期便の話は具体化しており麗華の言うようにすでに予約も始まっている。ローカル空港からの運航も計画が進んでおり年内にもスタートできるだろう。向かいに座る少女の言葉に感心しつついちいち
彼女は明後日アギラカナ・ムーン・リゾート(AMR)へ一泊二日ではあるが
「今後の月旅行はAMRが拡大されていき、ますます発展していくのでしょうが、そのさらに先にあるものを考えますと、月の先にある宇宙にわれわれは向かって行くのではないでしょうか」
「この太陽系の中の惑星への周遊が将来望まれてくるのではないでしょうか。つまり、大型宇宙船による太陽系クルーズこそが、月旅行の先にあると考えます。『豪華宇宙客船で行く、太陽系
一条とて、太陽系クルーズの可能性については考えてはいたが、特に急いだ案件ではなかったため具体的にどうしていけばいいのかは今のところノーアイディアだった。
彼女の上司であるアギラカナ代表の山田によれば宇宙船といった
「それで、造船会社の社長さんの法蔵院さんはどうされようというのですか?」
「アギラカナでは宇宙船などたやすく建造してしまいそうですが、クルーズ船用の宇宙船ともなると内装などもホテル並みかそれ以上のものが必要になります。私の
さらに、法蔵院グループの中核企業でもあります商船日本を使い、チケットの販売管理、一連の乗客管理やサービスの提供などクルーズ船特有の運営も容易に行えるようになると思います」
麗華のプレゼンに目を細めながら大きくうなずく一条。まさにわが意を得たりといった気持である。
「法蔵院さんは、法蔵院財閥の方ですよね?」
「はい、父がグループの
「お父さまには何かの会合で一度お会いしたことがありますが、なるほどそうでしたか。法蔵院さん、有意義なお話ありがとうございます」
いい意味で麗華は蛙の子だったわけである。一条は麗華にアギラカナ代表特別補佐官の名刺を渡し、アギラカナ大使館に引き上げて行った。
『勝った!』麗華は一条アギラカナ代表特別補佐官の知己を得るばかりか今まで民間では誰もなしえなかったアギラカナへの直接ビジネスを成功させたのだ。
「お嬢さま、おめでとうございます」
代田も嬉しそうに頭を下げた。
「代田、あなたとの
【補足説明】
RSジュピター1型
大型旅客機の翼を取り去り、胴体を太くしたような形状の宇宙船。成田と月のAMR間を片道2時間で往復している。600人乗り。
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