第5話 接触、一条佐江
今日は休日だが麗華は早朝から自宅に併設された
麗華は白の胴着に
麗華の持つ訓練用の槍は槍先の刃は潰してあるものの先端はそれなりに尖っているためその気になれば人を殺傷することは可能である。対する代田は無論
今日まで、数百回に及ぶ立ち合い稽古を代田と行ってきた麗華であるが、これまで一度たりと代田に槍を
ここのところの立ち合いを振り返るにフェイントなどを織り交ぜて代田のスキを誘いそこを突こうとしたのだが、ことごとく失敗している。無駄なファイントの分動きが遅れ、気付いたときには懐に入り込まれ稽古場の
今日も既に二度、麗華は代田によって稽古場の床に転がされている。そもそも何をどうしようがスキなど全くみせない相手にフェイントなど無意味だった。次は槍の速さと鋭さでまっこう勝負だ。
槍を両手で構え、足の指先を使い数センチずつ間合いを詰める麗華に対し、代田は自然体。下半身だけをやや斜めに構えて麗華の動きに備えている。
にじり寄る麗華が両手で構えた槍をわずかに引き
ドーン!
踏み出された麗華の右足が思いっきり床を叩く音が稽古場に響いた。
「避ける能わず、防ぐ能わず、貫けぬもの無し」といわれる法蔵院流槍術奥義、『一穿』(いっせん)。槍の穂先がいささかのブレもなく半回転しながら突き出された。
しかし、今回も代田には通じなかったようだ。
グルリ。代田の胸元を見ていたはずが稽古場の天井が見えたかと思うと体が一回転して床に叩きつけられていた。
グハッ!
とっさに受け身を取ったものの息が途切れる。それでも素早く起き上がり槍を構え直す麗華。
「お嬢さま、今の突きは見事でした。この代田が空気投げを披露することになるとは驚きです。床に落ちた後の動きもなかなかでした。ただ、お嬢様の『一穿』には技を出す前に独特の溜めが有りますので、見慣れた私ですと簡単に対応できます。
初見でお嬢さまのあの技に対応できる者はおそらく国内にはいませんから問題ないでしょう。この分では立ち合い稽古で使う槍の穂先に布を巻いていただかなくてはならなくなりそうですな。今日はこの辺にしておきましょう」
たがいに稽古着を正し礼をして立ち合い稽古を終えた。代田に彼の伝家の宝刀とも言うべき空気投げを初めて使わせることができ、麗華も満足している。やはり
法蔵院グループの調査機関からその日の昼過ぎ、品川のフルーツパーラーで一条佐江が食事中であるとの情報を得たため、麗華は
近くまでリムジンで運んでもらい、そこからその店までは歩きだ。その店のある通りは、大通りから二本ほど離れた通りで道が狭すぎる上に違法駐車もあり、麗華の乗るリムジンでは店の前に乗り付けることが出来なかったからだ。その店に今いる客以上に人が入らないよう既に手配が終わっているせいか昼間ではあるが人通りは少ない。
麗華が代田を従えその店に入ると、手配通り客はまばらで、情報通り食事中の一条佐江と美男美女の二人組。他に二、三名が客の全てだった。
「お嬢さま、あそこに座っている小柄な女性が一条特別補佐官にまちがいありません。二つ先のテーブルの男女二人組は物腰から見ておそらく一条特別補佐官の護衛です」
麗華は
「あのう、アギラカナ代表特別補佐官の一条佐江さんでしょうか」
今日の麗華は女子高校生だと判るようあえて高校の制服をあざとく着て、長いまつ毛の切れ長の目で上目がちに一条に話しかける。何事も第一印象が大事だ。もし一条がそっち系の男性だったならこのあざとさで一コロだったかもしれない。
見ず知らずの女子高生に話しかけられ、今食べていた食後のフルーツシャーベットのスプーンを皿に置く一条。相手が上品そうな女子高生だけに
「わたくし、こういう者です」
麗華が一条に手渡した名刺には「法蔵院グループ
【補足説明】
大神造船、大神造船所
改大和型に続く超大和型戦艦を建造するため旧海軍が大分の大神の地に超大型乾ドックを起工したが、戦局の悪化に伴い計画が中止となった。終戦後、途中まで完成していた超大型乾ドックと周辺設備が法蔵院グループに払い下げられ、今の大神造船所の原型となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます