第3話 爺咲花太郎、六道あやめ
「ふう、ふう、……。滑り込みセーフ」
校門が閉まる前になんとか校庭に滑り込むことが出来た
あれが
花太郎は1年B組の後ろの扉をなるべく音を立てないよう開けて教室の中に入っていく。いまは国語を受け持つ
花太郎は今日の1限があやめの授業だったことを失念していた自分を
このクラスの生徒たちは花太郎には関わりたくないので花太郎が教室に入るとき立てた扉の音に振り向きはしたが無関心を装っている。入学早々花太郎の名前をからかった男子生徒がいたのだが、花太郎と
その後も何回か同じ理由でほかの生徒と
その生徒を襲ったのは花太郎ではないかとクラス内で
本来は警察沙汰になるような事件にもかかわらず、この件に関して報道もなければ警察も動いてはいない。学校関連のでき事なので理事長の本家筋である法蔵院家がもみ消したのだろうと
そういったことが続き、いつも絡まれて仕方なく応戦しているだけの花太郎なのだが、目つきが鋭すぎることも災いし今では周囲からは
「
濡れた体が冷えてきた花太郎は、ここは正直に、
「寝坊しました。すみません。服が雨に濡れてパンツまでビショビショなので部室で着替えて来てもいいですか?」
「早くいってこい」
急いで教室を出た花太郎は予備の着替えを置いてある剣道部の部室に走って行った。花太郎は剣道部員なのである。
ジャージ姿で教室に戻った花太郎は自分の席に座り、あやめの授業を真剣に聞いている振りをしているのだがときたま窓の外を眺めている。その窓の先には、ここからでは見えないがアギラカナ大使館がある。たまに、貨物宇宙船が大使館横の貨物ターミナルに発着する様子を眺めているのだ。
花太郎の席は、最初は教室の真ん中あたりだったのだが、いつの間にか窓際の一番後ろの席になっていた。花太郎が遅刻するたびに1つだけ空いてる机が後ろの方、窓際の方へと移動していくのだ。麗華とはまた違った意味で隔離されたようだ。
キーンコーンカーンコーン、……。
「今日はここまで。
六道あやめの教師歴はまだ三年ほどだが生徒指導も担当している。
「起立、礼」
放課後の生徒指導室。
午前中の雨がうそのように晴れ渡り、いまでは青空が広がっている。部屋の中からは見えないが、頭上には丸くはないが昼間の月のように白く見える宇宙船が浮かんでいる。
テーブルを前にして六道あやめがスチール
「爺咲(やざき)! いい加減にしろー! あたしの授業に遅れたのは今日で何度目だ? いい加減にしろよ」
「も、申し訳ありませーん」
「あのなあ、あたしの授業だから良かったが、遅刻なんかするんじゃねー! それでなくともおまえは他の
とにかく目立つようなことはするな。記録に残るから他の先生の授業じゃ絶対に遅刻だけはするなよ。まあ、つまらん授業を見つからないように居眠りするくらいはおまえの勝手だがな」
「申し訳ありませーん。これから居眠りするときは見つからないようにします!」
まさに平身低頭。それに、
年齢の関係でまだ剣道2段ではあるものの白鳥学園剣道部の中では高1ながら実力ナンバーワンの花太郎であるが、全日本女子剣道選手権2年連続準優勝、剣道4段の六道あやめにはいまだに1本も入れたことはない。その前に、彼女の連撃からの突きをくらい何度も吹き飛ばされている。
あやめからすれば、自分の得意技を出さざるを得なくさせる花太郎の実力に大いに期待している。今の3年の主将が引退すれば、花太郎を次期主将に据えようと思っているし、それについて上級生もだれも文句は言わないだろう。
次の対外試合では、部内での勝ち抜き戦を行って出場選手を決めるつもりだが、花太郎が勝ち抜き戦で優勝するのはほぼ確実で、対外試合では大将を務めさせよう思っている。先鋒などに起用してしまうと、抜き戦形式の試合のため一人で相手方五人を倒してしまいそうで、そうなると他の選手が試合を経験できなくなるからである。
あやめは当然花太郎が同級生にけがをさせたのではないかと言う黒い
「これからすぐに部活だ。サボるなよ」
「はい!」
今も剣道界で「地獄突きの六道(りくどう)」「六道
【補足説明】
頭上の宇宙船:
東京の国会上空100.0キロ(日本の領空外)に滞空している全長3.6キロの大型宇宙船。表面が青色を帯びた灰白色の特殊素材で覆われている。一般にはこれがアギラカナだと思われている。
[あとがき]
山口遊子(やまぐちゆうし)のフォロワーさんが350名を越えました。ありがとうございます。
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