第三章 ~『格闘ゲームと好み』~


『視点変更:杉田サイド』


「改めて仮の恋人になると、なんだか恥ずかしいですね」

「だな」


 別れる前の二人は会話が途切れることがなかったし、いつでも自然体でいることができた。しかし今の二人は違う。隣にいるだけなのに、変に意識をしてしまう。


「テレビでも見るか?」

「今の時間だとアニメは放送されていませんよ」

「オタクでもアニメ以外見るからな!」

「そうですか? 私はオタクになってから、アニメ以外見ていませんよ」

「いつの間にか俺以上のオタクに成長したんだな……」

「ふふふ、これでまた一つ杉田くんに勝つことができましたね」

「うぐぐ、オタク度で負けても悔しくないはずなのに、なぜだか無性に腹が立つ」

「リベンジのチャンスをあげましょうか?」

「ラノベの人気対決のことか?」

「そちらも当然、私が勝たせてもらいます。ですがもっとお手軽に決着が付くものを用意しました」


 道具を取りに戻ると言い残して、桜木は部屋を出る。いったい何を持ってくるのかと心待ちにしていると、帰ってきた彼女はゲームソフトを手にしていた。


「桜木もゲームするんだな?」

「私はオタクでも一流ですから。アニメもラノベもゲームも何でもこなします」

「随分な自信だな。どんなゲームを持ってきたかを教えてもらおうか」

「私が用意したゲームはこちらです」


 どうせ可愛い犬や猫を育てるゲームだろうと予想していたが、良い意味で裏切られる。彼女が手にしたゲームソフトのパッケージには筋骨隆々の二人の男が拳を交えていた。


「格闘ゲームをやるとは意外だな」

「ここのところ、ストレスが溜まる出来事が多かったですからね。仮想世界でストレスを発散していたんです」

「桜木も立派な陰キャになったなぁ」

「皮肉を口にできるのも今の内です。私のゲームテクでギャフンと言わせてやりますから」

「それはこちらの台詞だ。オタク歴の違いを見せてやるよ」


 ゲーム機を起動し、対戦モードを立ち上げる。選択画面で多くのキャラクターが並ぶ中、桜木は黒髪の不良キャラを選択する。その風貌はどこか昔の彼に似ていた。


「まさかとは思うが、俺に似ているからこのキャラを選んだのか?」

「ぐ、偶然です。勘違いしないでくださいね!?」

「しねぇよ」


 桜木の真意は『完璧超人桜ちゃんの恋』によって既に知らされている。似たキャラを選んだのは本当に偶然なのだろう。


 プレイスタイルや外見からキャラを選んだ結果、たまたま似ていただけなのだ。変な期待をしてはいけないと、自分を戒める。


「なら俺はこいつにするか」


 数あるキャラから杉田が選択したのは金髪青目の制服女子だ。桜木と似た風貌であることは一目瞭然で、彼女もそのことに気づく。


「へ、へぇ~、その娘を選びますか」

「外見が好みなんでな」

「そうですか……ちなみに誰かに似ていると思いませんか?」

「さぁ、誰に似ているんだろうな」

「むぅ、杉田くんは意地悪ですね。そんな意地悪さんはゲームでお仕置きしちゃいます」


 キャラクターの次にステージも決まり、二人のキャラは構えを取りながら対峙する。拳を握って火花を散らすヤンキーと美少女の対比は何だか滑稽さを感じさせた。


「先手必勝です」


 桜木はコントローラーを慣れた手つきで操作し、初手から必殺の連続打撃を繰り出す。初めてプレイするはずの彼が初見で躱せるはずがないと確信するが、あっさりと裏切られ、すべての打撃が捌かれてしまう。


 さらに反撃は止まらない。彼は巧みな操作でキャラに攻撃を命じる。連打を躱され、隙が生じたところに必殺技を炸裂させる。勝敗は杉田の勝利で決着した。


「私の必勝コンボが破られるなんて……まさか杉田くんはこのゲームの熟練者ですか?」

「いいや、初めてプレイするゲームだぞ」

「ならどうやって私の攻撃を避けたのです?」

「要領は喧嘩と同じさ。殴ろうとすると身体に兆候が現れるのはゲームも同じ。僅かなフレームの変化が生じるから、それを読んで躱すだけさ」

「さすが元ヤンオタクさんですね」

「それ褒めてないだろ……」

「元ヤンを除いてオタクであることを強調すべきでしたね。これは失礼しました」

「失礼なのは変わらないままだけどな!」


 二人は軽口を叩きあう。先ほどまでの気まずい空気は消え、仲が良かった頃に戻れた気がした。


「もう一戦やりましょうか?」

「かかってこい」

「今度は負けませんからね」


 桜木は再度挑戦する。負けず嫌いの彼女は敗北しても諦めようとしないのだった。


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